強引上司がいきなり婚約者!?
私は胸に抱えたお弁当箱からむくりと顔を上げた。
静まり返った廊下に他の人の気配がないのを確認し、ホッと息を吐く。
とりあえず顔の火照りは治ったかな。
私はドアの向こうでしばらく時間を潰しているであろう色男のほうを一度だけ振り返り、オフィスフロアに向かって歩き出した。
あの人って誰にでもこうなの?
スマートでセクシーで大人の男なのに、ときどき私にだけ気を許してるんじゃないかって思わせるのが上手い。
しつこいとは感じさせない絶妙な頻度でくるメールとか。
車に乗せたり家に呼んだりしておきながら、そういうときは色っぽい雰囲気にしないところとか。
不意に触れたときの手のひらの熱い力強さとか。
そういうのを見せられるたびに、もっと近づきたいって思わされる。
彼がモテすぎて困ってるのって、半分は兎川さんのせいなんじゃないのかな。
「兎川さんがもっとダメ男だったらいいのに」
だって、こんなに抗いようもなく惹かれていくのはこれが初めてだもん。
私が惚れっぽいわけじゃない。
ダメってわかっててもどんどん好きになっちゃうのは、きっと兎川さんのせい。