強引上司がいきなり婚約者!?
これってちょっと理不尽だ。
なんの抵抗もなく『兎川主任が恋人です』って言えるなら、私だってそうしてる。
でもふたりの関係は契約で結ばれた仮初めの恋人であって、しかも公にはしちゃいけないって約束がある。
その上さらに厄介なことに、私は兎川さんのことをただの苦手な俺様上司と思えなくなってきていて……。
隣で不機嫌オーラを放つ兎川さんにつられて、私もだんだん腹が立ってきた。
人の気も知らないで。
私にだって、不満のひとつくらい言う権利はあるはずだ。
私はふんっと息巻く。
「だって、私、ウソの婚約者ですから。ニセモノがそんな図々しいことできません」
「なんだと?」
兎川さんが片眉を上げて気色ばむ。
それから唇をピクピクさせて微かに舌打ちをしたかと思うと、急に私の腕を掴んで壁際に追い込んだ。
私は目を丸くして、目の前に立ち塞がる男の人を見上げる。
相変わらずセクシーな首筋とか、少し尖った男らしい顎のラインとか、視界いっぱいの兎川さんが私の心臓を大きく打ち鳴らす。
私が一瞬で動揺したのを見ると、兎川さんは不敵に微笑んで私の頬をムニッと摘んだ。