強引上司がいきなり婚約者!?
「い、いひゃいです」
「お前が腹立つこと言うからだ」
まつ毛の下からそっと目を上げると、いたずらっぽい二重の双眸が急に真剣な表情になった。
兎川さんが壁についていた腕を曲げ、背の高い腰を折る。
彼の香りがフッと強くなった。
兎川さんがなにをする気なのかなんとなくわかった気がして、私は慌てて近づいてくる胸に手を置いて止めた。
手のひらに伝わる鼓動が少しだけ速い。
「ちょっ、ま、待ってください! こ、ここ会社ですよ」
わー、私のバカ!
場所の問題じゃないよ!
これじゃあ、会社じゃなかったらいいってことになっちゃう。
そうじゃないのに。
ここがどこだろうと、私はこの人に屈しちゃいけないのに。
焦ってぐるぐると目が回る。
兎川さんは私の頬から指を離すと、その手で胸に置かれた私の手を絡め取った。
震える手を捕まえるのと同時に、強い視線で私の目を覗き込む。
兎川さんは鼻先が触れるような距離までグッと顔を寄せて、その強引さとは反対に、懇願するような声で囁いた。
「志帆。ウソでも好きならキスまで許せ」
カッと頬が熱くなる。
なにこれ。
そんなの逆らえるはずないって、兎川さんにはお見通しなのかな。
ギュッと強く目をつぶる。
抵抗はしなかった。
返事をする代わりに、握られた手に少しだけ力を込める。
兎川さんが息を飲んだような気配がして、それからすぐに唇が塞がれていた。