強引上司がいきなり婚約者!?
一、ふたりの関係は公にすべからず
エレベーターが止まったとき、私たちは慌てて身体を離した。
まるでお互いの唇で火傷でもしたかのように。
静かにドアが開くと、1階でエレベーターを待っていたふたりの女性社員が私たちに気づいて愛想よく挨拶をする。
というか、主に兎川さんに向けて。
私は頭の中で即座に、これまで兎川さんが虜にしてきたたくさんの女性たちの数を思い浮かべた。
その中でも彼のキスを知っているであろう人数を憶測で打ち出し、勝手に嫉妬する。
兎川さんがなにをやっても完璧なことはわかってた。
だけどたった一度、唇を触れ合わせるだけのキスが、こんなに肌を熱くさせるなんて知らなかった。
先に動いた兎川さんの影に隠れるように、真っ赤になった顔を俯けてエレベーターを降りる。
私の蒸発寸前の頭のせいで、エレベーターの中の温度まで上がってないといいんだけど。
私たちは一機しかないエレベーターを黙って見送り、少し時間を置いてからもう一度呼び出した。
専務の前から逃げるために兎川さんがとっさにそうしただけで、とくに1階に用事があるわけではない。
エレベーターを待つ間、私たちはお互いジッと黙っていた。