強引上司がいきなり婚約者!?
戻ってきたエレベーターに乗り込んでまたふたりきりになると、私は横目でチラリと兎川さんを盗み見た。
彼はギュッと口を引き結んで、拗ねたような顔をしている。
私と同じだ。
眉間にちょっとシワが寄って、目の縁が朱色になっているところも、きっと。
ふと、兎川さんがこちらを見下ろした。
視線がぶつかると、示し合わせたようにお互いが引き寄せられていく。
一旦その衝撃を知ったら、もう一度試さずにはいられない。
背の高い兎川さんが、私に合わせて腰を折る仕草が好き。
小さく首を傾げるところも。
扇型に広がった長いまつ毛も。
私の顎を持ち上げる、優しい指も。
今度はなにも言わずに目を閉じた。
最後の数センチを埋めたのは私だったかもしれない。
二度目のキスに、理由はなかった。
* * *
エレベーター事件(あんなに頭が真っ白になったのは事件に等しい)のあと、私は週末まで沈黙を守った。
兎川さんはときどき真剣な表情でなにか言いたそうにしていたけど、私が話を逸らそうとするのを察知して、いつもと同じ軽口だけを利くようになった。
私にまだ覚悟がないことまで、彼にはわかっているのかもしれない。