強引上司がいきなり婚約者!?
兎川さんが金森さん夫婦に進めるためにピックアップした土地はいくつかあって、それぞれ基本の書式で契約書を作成してある。
兎川さんはスッと腰を屈めると、私が椅子を動かしで場所を譲るよりはやく、私の肩口に顔を寄せて画面を覗き込んだ。
私はハッと息を止める。
兎川さんの微かに甘い香りが鼻先をくすぐると、お腹の中で小鳥が暴れているみたいにムズムズした。
あからさまに距離を取ることもできず、ピシリと固まってパソコンを睨みつける。
軽く目を通して頷いた兎川さんが、手を伸ばして画面を指差した。
「この契約書だけ、条項を書き足してほしいんだ。都市計画法の関係で建築許可を取るのが難しいかもしれない。でもこの土地が一番条件がいい」
「わかりました」
返事をすると、兎川さんが脇に抱えていた大きなファイルの片方を私に差し出した。
「次の打ち合わせまでに目を通しておいて。難しい取引になると思うが、きっと成功する」
ファイルを両手で受け取ると、ズシリとした重みにびっくりした。
近頃忙しそうにしていたのは、このためだったのかもしれない。
住宅メーカーでは、ここまで念入りに土地探しをする営業は決して多くはないと思う。