強引上司がいきなり婚約者!?
建築許可が下りるか微妙な土地に手を出そうとする人はもっと稀だ。
それでも兎川さんは金森さんとの約束を誠実に守るために、こうして手のかかる準備をしていたんだ。
「あの、兎川主任!」
私は彼が私のために用意してくれたファイルをギュッと胸に抱いて立ち上がり、背を向けた兎川さんを呼び止めた。
兎川さんが振り返って、ずっと避けていた黒い目がまっすぐに私を捕らえた。
私がその場で卒倒する代わりに、お腹の中で暴れていた小鳥が撃ち落とされて降参を告げる。
こうなることがわかってたから、向き合いたくなかったのに。
たった今、どんなに抵抗したって私が兎川さんに抗えるはずもないってことが証明されてしまった。
私は少し顔をしかめながら彼を見返す。
「なにか、他にお手伝いできることはありますか」
兎川さんがヒョイッと片眉を上げた。
それから頬にえくぼを浮かべて、私が抱いたファイルを指差す。
「じゃあ、それを読んだら内容を噛み砕いて、金森さんへの説明用の資料を作ってほしい。込み入った話になるから」
私はコクンと大きく頷いて、満足そうな兎川さんから視線を外し、さっそく仕事に取り掛かった。