領収書
お父さんが帰ってくると、私は「みーちゃん」と隣の部屋に逃げた。
隣からはお父さんの怒鳴り声と、お母さんの苦しそうなうめき声。

小さくなって、耳を塞いで震えていると「みーちゃん」はいつも私の手をペロペロ舐めてくれた。
そんな「みーちゃん」を抱きしめながら、幾度と夜を越えた。

お母さんの体に湿布や絆創膏が増えていくたびに、お母さんの笑顔は減っていった。
もう、二人でいても、ほとんど会話をしなくなっていった。

いつも以上にお酒臭いお父さんが、怒鳴り声と共に、隣の部屋に入ってきた。

「やめて!子供にだけは…!」

床にうずくまったお母さんが、私の方に手を伸ばして叫ぶ。

「うるせぇ、お前は黙ってろ」

目の前に現れたお父さんが怖くて、震えて涙をポロポロ流していた。
お父さんが手を振り上げた時、「みーちゃん」が私の前に立って威嚇をした。

シャーーーーッ
聞いたことない「みーちゃん」の声。

「なんだこいつ」

お父さんは、小さな子猫を蹴りあげようと足を動かす。
身の危険を感じたのか、「みーちゃん」は必死でお父さんの足に噛みつく。

「ふざけんな!」

振り払おうと手で子猫を押し返す。
大人の握力に、「みーちゃん」は簡単に飛ばされてしまった。
飛ばされた拍子に、強く体を打ち付けたようだった。

地面に横たわった「みーちゃん」が、それから動くことはなかった。
< 5 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop