【完】七瀬先輩と秘密の恋におちて
上手く説明のつかない気持ちが燻(くすぶ)ってひたすらだんまりしてしまう。
「八重」
息を吐き出したみたいな低い声が短くわたしの名前を呼んでも、不透明な想いが喉元でつっかえて苦しくなって微塵も振り向けなかった。
「なんで、わたしなんかに構うんですか……夏目先生とのことなら、絶対に言わないって言ってるじゃないですか」
「お前なんか、じゃねぇよ。お前だからだ」
「……っ」
そんな本当かどうかもわからない台詞。
根拠も理由も重みもないような不透明な言葉。
内緒とはいえきっと夏目先生の口振りからして、わたしと七瀬先輩の距離が以前よりも遥かに近づいていることを気づいていると思う。
どんな気持ちで夏目先生は七瀬先輩を見つめているんだろう。
「わたしだから……?」
「そうだって言ってんだろ。一年前、あの日のお前を知ってるから」
遠くを見つめたような瞳が憂いの影に染まる。
一年前のあの日……。
ドクンッ、ドクンッとうるさい心臓は一度暴れだすと静まる気配がなかった。