伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
……ライル様……元に戻ってる……?

先ほどまでの、自我を忘れたような荒々しい雰囲気は、ライルの中からすっかり消え去っている。

「一方的に君を責めるような言い方をして、ひどいことをした。謝ったところで、許されるとは思ってない。憎まれても自業自得だ」

ライルはぐっと拳を握りしめた。

「……そんな、憎むだなんて……」

「でも、怖い思いをさせたのは事実だ」

「……た、確かに……びっくりして……怖かっ……た……」

言葉の最後の方が、少し涙声になった。

ライルが顔を上げると、クレアの大きな瞳いっぱいに溜まった新しい雫が、今にもこぼれ落ちそうになっている。

「……でも、ライル様が何で怒ってるのか……私、分からなくて……そっちの方がすごく悲しくて……」

抑えきれなくなって、ポロリ、と大粒の涙がクレアの頬を滑り落ちた。

「……私が……何かライル様を怒らせるようなことをしたから……」

「違う! 俺が悪いんだ。俺がちゃんと君に伝えなかったからだ」

情けなかった。本来なら、ちゃんと手順を踏んでから伝えるはずだったのに。だが、そうも言っていられない。

こんな醜態をさらした後で、信じてもらえるだろうか。……自分の気持ちを。


「……君がアンドリューと仲良くしてるように見えて、取られるじゃないかと嫉妬したんだ」


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