伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「当時の俺の目には、父は立派な当主として映っていた。だから、父に避けられてると分かっていても、それなりに尊敬していた。……でも、父の告白はあまりにも衝撃的で、俺は言葉を失った」

許せなかった。許せるわけがない。母親の人格を壊し、直接その手にかけたわけではないが、結果として死なせた。

さらには、その真実を隠し、ずっと息子を欺き続けてきた。

「それなのに、父は一人で秘密を抱え込んだまま、死後に神の審判を受けるのが恐ろしくなったんだろう。死に際に全てを俺に白状し、懺悔して、さっさと楽になろうした」

ライルの口調には明らかに侮蔑の色が含まれていた。

「俺が見ていたのは、こんな愚かな人間の背中だったのか、と思うと情けなくなった。父は、俺が怒り狂って飛びかかってくるだろう、と踏んでいたかもしれないけど、俺は何も言わずに部屋を出た」

最期まで父の思い通りにさせるものか。同じ空気を吸うのも嫌になって、ライルは冷たい眼差しで射抜くように父を見下ろすと、無言で寝室を後にした。

「父と顔を合わせたのはそれっきりになってしまった。……翌日、父は息を引き取った」

一気に話し終えると、ライルは重苦しくため息をついた。

静寂が、部屋を包む。

傾きかけた西陽が窓から入り込み、壁に反射していた。夕刻の光を受けて、ライルの淡い金髪がきらめいていたが、それとは対称的に、その顔にはあまり生気が感じられなかった。


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