伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「さっき、出入り禁止だと仰っていたので、きっとアンドリュー様はショックを受けられていると思います」

「……そうだったね。分かった」

すっかり忘れていた、と言ったら、アンドリューに怒られるに違いない。

「……それに、私のせいでお二人がケンカになってしまって……本当に申し訳ありません……」

「それは違うよ。そもそも、アンドリューとはケンカになっていない」

そうだった。ライルには解決しなければならない問題が残されていた。

次は、この思い込みの激しい誤解を解かなければならない。

「クレア、ちゃんと俺の話を聞いてくれるかい?」

「は、はいっ……」

どんなお叱りでも……!と、クレアはぎゅっと目を閉じた。

だが、彼女の耳に届いた言葉は予想と大きくかけ離れていた。

「俺は、アンドリューを取られたくなくて嫉妬したんじゃない」

「……え?」

クレアは瞼を上げた。

「君を泣かせるようなことをしておいて、こんなこと言える立場じゃないことも、重々承知だ」

「……?」

「だけど、もう限界なんだ。自分の気持ちを抑えるのは」

「……は……い……?」

話の筋道が分からず、クレアは少し首を傾げる。

ライルは、その深い翠緑の瞳をクレアに真っ直ぐ向けた。


「君との雇用契約を終わりにしたい」


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