伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「……！」

その言葉は、鋭利なガラスの破片となって、クレアの心に突き刺さった。

……終わりにしたいって……仰ったわ……。

解雇宣告だ。

つまり、クレアは婚約者としての役目を終えたということだ。

それは、ライルのそばから離れるということを意味をしていた。

思わず目を伏せる。


もう限界だとも言われた。怒らせてしまったことが原因なのか、それとも以前から、やはり婚約者役として相応しくないと判断されていたのか。

……だ……大丈夫……いつかこんな日が来ることは、分かっていたはずよ……。

クレアはよろよろとベッドから立ち上がると、ライルに向かって深々と頭を下げた。

「……お役に立てず、申し訳ありません……お世話になりました……」

頭を上げ、目を伏せたままで部屋を出ていこうとするクレアを見て、ライルは慌てて立ち、彼女の腕を掴んだ。

「また何か勘違いしてるね？ ちゃんと話を聞いてくれる約束だったよ」

「……いえ……全部聞かなくても……分かります……」

何が駄目だったのか、今は聞く気力もない。

「いや、分かってない」

ライルはクレアの肩を掴むと、彼女の体を自分の方へ向かせた。

「ごめん。俺の言い方が中途半端だった。俺が嫉妬したのは……君をアンドリューに取られたくなかったからだ」

「……え……？」

思わず顔を上げる。至近距離に、ライルの端正な顔があった。

「雇用契約を終わりにしたいと言ったのは、偽の婚約者という関係を終わらせたい、ということだよ」

緑の瞳が真っ直ぐにクレアを見つめる。



「俺の……本物の婚約者になってほしい」



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