伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
……しょ、将来って……そ、それって、プロポーズ……!?


ここに来てからというもの、ライルへの想いをずっと内側に閉じ込めて考えないようにしていただけに、思ってもみなかった急展開に頭が付いていけず、すぐに現実感がわいてこない。

……ああ、夢でも見てるみたい……いいえ、きっと夢よ……。

嬉しすぎて、何も言えなくなる。




しばらく無言で優しく抱きしめられ、徐々にクレアの思考も回り始めた。

嬉しい反面、不安が募っていく。

……でも……どうしたらいいの……?

本当は、今すぐにでも、ライルの広い背中に腕を回して、抱きつきたい。

だが、自分は彼に相応しいほどの人間に成長出来たのだろうか。

最近、ようやくダンスを覚えたばかりだし、所作や作法もやっと板に付いてきたところだ。

身分だけは一応、アディンセル伯爵家令嬢だが、庶民の出であることは隠しようのない事実で、義母や異母妹のように見下す貴族もいるだろう。それを、はねのけられるほど精神的にも強くないし、自分に自信があるわけではない。

このままでは、いずれライルの親族の反対にあってしまう。

自分の母のように。



「……ライル様……」

「うん」

ライルがクレアに回している手をほどいて、彼女の顔を覗き込んだ。

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