伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
ヴィヴィアンは憎々しげに、鋭い目付きでクレアを見下ろしている。

彼女も母親と同じく、プライドが高い。

もし、腹いせにぶつかってきて、クレアの持つトレイが傾きでもすれば、食器が滑り落ちて床に叩き付けられるだろう。

後片付けはもちろんだが、あの夫人のことだ、一方的にクレアに非があると責めて、食器の弁償を課してくるに違いない。

……そうなったら、大変! 無駄な出費になる……!

限られた収入での庶民生活が長いと、どうしてもそんな心配をしてしまう。

クレアはサッと前を向くと、配膳室まで続く廊下をやや駆けるようにして進んだ。



それを見ていたヴィヴィアンは、彼女が自分の視線に恐れをなして去っていったのだ、と都合良く解釈して、満足そうに笑うのだった。



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