伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
路地の角を曲がると、小さな商店が軒を連ねる通りに出る。

いつもなら、クレアの店の扉が遠目に見えるが、今はその前にたくさんの人だかりが出来ていて、店の全容が分からなかった。

「すみません、通して下さい!」

クレアは慌てて駆け寄り、人垣をかき分けて何とか前に進む。

そして、目の前に広がる無惨な光景に--



言葉を無くした。


……何……これ……?


店の出入り口の鍵は破壊されて、木製の扉も原型を留めておらず、ただの木片の塊と化して辺りに散らばっていた。

通りに面していたガラス窓も割られ、粉々になっている。

「……!」

クレアは急いで中に入った。

だが、一歩足を踏み入れたところで、そのまま立ち尽くす。

一昨日まで、きちんと種類こどに整頓されて棚に並んでいた茶葉の箱が、全てひっくり返され、中身が床一面にばらまかれた状態になっていた。

後から入って来たジュディも、驚きで思わず口元を押さえる。

「……クレア様……私、急いでローランド様に伝えてきます……!」

ジュディは店を飛び出していった。


「誰がこんなことを……」
「ひどいな……」

外では人々のざわめきが聞こえてくる。


……どうして?……お母さんの宝物だったお店が……私とお母さんの思い出が詰まったお店が……



「……クレア」

ハンナの呼び掛けにも、クレアは反応せず呆然としていた。

「何か盗られたものはない? 朝早くに警察に通報したから、もうそろそろ来てもいい頃なんだけどねぇ……」


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