伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
商品のほとんどは廃棄処分だ。

すると、それを見ていた近所の店の人々も、自分の所から掃除道具を持ち出してきて、クレアを手伝い始めた。

「あの、皆さん、結構ですから……それぞれお店のお仕事もありますし……」

それに気付いたクレアは申し訳なさそうに声を掛けたが、人々は帰ろうとしない。それどころか、皆、口をそろえて言った。

「何言ってんだよ。困った時はお互い様だよ」

「クレアは俺達の娘も同然だからな。今は店は他の奴に任せてるから、気にするなよ」

「あたしも病気になった時、クレアの母さんが店のことを放り出して、看病に来てくれたことがあったんだ。おまけに子供達の面倒も見てくれてさ。せめてもの恩返しだよ」

「クレア、安心しな。俺が犯人を取っ捕まえてやるから」

「この店を潰させやしないよ」

俺も、あたしも、と声が上がる。

……皆さん……。

一人ではないということは、どんなに心強いことだろう。

「……ありがとう、ございます、皆さん……!」

クレアは目頭が熱くなるのを感じた。この町で育って良かった、と心から思う。

ジュディも屋敷から戻ってきていて、一緒に後片付けを手伝ってくれた。

吹きさらしでは店に埃が入るからと、誰かが廃材の板を持ってきて、皆でガラスの無くなった窓を覆う。

もう使えなくなってしまった茶葉と、無事だったわずかな商品を外に運び出し、入り口も同様に板で塞いだ。

昼前には後片付けは終わった。木片やガラスの破片などの処分物は、近所の人の手によって、廃棄場所へと運ばれていった。

クレアは一人一人に丁寧に礼を述べると、皆、笑顔でそれぞれの仕事に戻っていった。





クレアはしばらく変わり果てた店の外観を眺めていたが、

「ジュディ、帰りましょう」

と、静かに踵を返した。

これからのことを、考えなければならない。

「はい」と、ジュディもその後に続いた。

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