伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
クレアは翌日から、店を閉めることにした。再開したばかりだが、ライルのことが心配で、それどころではなかった。いつライルから知らせが来るか分からないし、それに、もし帰ってくる日が分かれば、駅まで迎えに行くつもりだった。

南の港から王都のある中央駅までは、汽車で三日もあれば余裕で着く。

だが、一週間経っても、ライルは帰ってこなかった。





「クレア、ちゃんと食べてる?少し痩せたんじゃない?」

イーストン子爵夫人が、玄関まで出迎えたクレアの顔を見るなり、その体をぎゅうっと抱きしめた。

その日の午後、イーストン子爵一家がクレアを訪ねて来てくれたのだった。

「大丈夫です、叔母様。ありがとうございます」

クレアは微笑むと、その横に立つ子爵とアンドリュー様にも挨拶した。

「叔父様、アンドリュー様、ようこそいらっしゃいました」

子爵夫妻を本当の親族のように呼ぶのにも慣れてきた。出会って間もない頃にクレアが、子爵様、奥様という呼び方をすると、「もう、水くさいわね、叔父様、叔母様って呼んでくれなきゃ嫌よ」と、夫人に釘を刺されたのだ。

ライルがいない三ヶ月の間、夫妻はクレアが寂しくならないように、時々自宅に招いたりと、本当の娘のように可愛がってくれている。

それに、いまだにライルの安否が不明で、クレアが憔悴しきっているのではと心配して皆で来てくれたことにも、彼女は感謝していた。

「どうぞ、こちらへ」

ローランドが一家を応接間へ案内しようと歩き出した時。



バタンッ--



いきなり、玄関の扉が大きな音と共に開け放たれた。



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