伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「失礼しますよ」

いくつかの靴音が無遠慮に床を鳴らすのが聞こえ、クレア達が振り返ると、黒っぽい上着と帽子姿の紳士が四人、玄関から入ってきたところだった。歳は全員、四十代半ばといったところか。

そのままずかずかと屋敷の中に入ろうとする彼らに、ただならぬ空気を感じて、子爵が制するように前に出た。

「何事ですか」

「これはこれは、イーストン子爵。あなたもいらしていたのですか」

子爵と紳士達は知り合いのようだ。

「僕らの遠縁の者達だよ。普段は付き合いがほとんどないのに、こんな時に出てくるなんて。それに、事業の資金繰りが上手くいかなくて、周囲からは煙たがられている連中ばかりだ。何か嫌な予感がする」

アンドリューがクレアにだけ聞き取れる声で囁いた。今にも、チッと舌打ちしそうな口調から、やはり彼らに良い印象を持っていないことがうかがえる。

「そこをどいてもらえますかな、子爵」

「申し訳ないが、主の不在に、勝手に訪問者を招き入れることは出来ませんな」

「不在? 永遠に不在の間違いでは?」

そのうちの一人が嘲笑うかのように、鼻を鳴らした。

「……永遠とは、どういうことです?」

「口で説明するより、ご覧頂いたほうが早い」

男の一人が、懐から一枚の紙を取り出し、子爵の鼻先に突き付けた。

「これは……?」

「警察が確認し、断定した行方不明者のリストですよ。いや、死亡者リストと言っても過言ではないでしょう。私は警察の中に親しい者がいましてね、世間に出る前に特別に教えてもらったのですよ。ほら、ここにこの家の当主の名前が載っているでしょう」

「何だって!?」

声を上げて、子爵よりも早く、紙に手に伸ばしたのはアンドリューだった。

だが、食い入るように紙を見ていたその瞳が大きく見開かれる。

「私にも、見せて下さい!」

クレアはアンドリューの手からリストを奪うと、必死に名前を探した。しかし、ある一点でその視線は止まった。




--Lyell

Bradford--




……そんな……。


リストを持っていたクレアの手が、だらりと下がった。




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