伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「嘘だ……そんなの、デタラメだ!」

アンドリューは声を荒らげたが、男達の態度は冷ややかだった。

「では、一週間経っても帰ってこないこの事実をどう説明するつもりだね?生きていれば何らかの連絡があるだろう。そろそろ現実を見たまえ」

「何を偉そうに……!」

「落ち着きなさい、アンドリュー」

子爵は、今にも相手に掴み掛かりそうな勢いの息子の肩に置いて、下がらせる。

「それで、あなた方はここへ何をしにいらしたのですか?」

「ブラッドフォード伯爵に後継ぎはいない。誰が相続人になるかは分かりませんが、知らない間に誰かがこの莫大な財産を独り占めしてしまうかもしれない。我々はそうならないために、監視に来たのですよ」

「監視?あなた達にそんな権利はないはずですが」

「言葉を返すようだが、我々もあなたに指図される覚えはありませんよ。そういうあなたも、この家の財産を狙っているのではありませんか。そういえば、あなたはライルの元後見人でしたね。相続人として彼に一番近い人物というわけだ」

「何を馬鹿なことを……」

「父を侮辱するな!」

これにはさすがにアンドリューも黙っていなかった。

「ふん、あわよくばライルの財産を少しでも手に入れようという算段だろう。人の金を当てにするような能無しだから、事業も上手くいかないのさ」

「何だと、小僧、調子に乗るなよ!」

男達は怒りで顔を真っ赤にした。

「やめて下さい!」

クレアは前に飛び出し、男達の方を向いた。

「あなた達は、そんなにライル様が帰ってこないことを望んでいるんですか!? 私達は皆、ライル様の帰りを待っています! 心が折れそうになっても、それでも待ってるんです!ここは、ライル様がお帰りになる大切な場所です。あなた達のような、やましい心を持つ人間が入って良い場所ではありません。どうか、お引き取り下さい」

クレアは毅然とした態度で、男達に言い放った。

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