伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「アンドリュー様は、ライル様にお会いになったのですか?」

「うーん、忙しそうだったからね、相手にされなかったよ」

というのは、嘘で、本当は怒られたのだが。


アンドリューが、

『何でさっさと結婚しなかったんだよ。店なんか造って、準備や経営のことでクレアも忙しさに追われることになるのは、分かってたはずだろう? そんなにお前が禁欲生活を送りたいなんて、僕は知らなかったよ』

と言い終えた次の瞬間、執務机に向かっていたライルの手が動き、近くに置いてあった分厚い本が、アンドリュー目掛けて勢いよく飛んできた。

間一髪でよけたが、当たっていたらかなり痛いに違いない。

『お前っ、今、全力でやっただろう』

『俺はいつでも全力だ』

そして、案の定、出ていけ、と言われ、今に至るのである。

……あれは、相当後悔してるな……。



「アンドリュー様?」

急に黙り込んだアンドリューを心配して、クレアが声を掛ける。

「ああ、いや、何でもないよ。式を挙げたら、あなたもライルのことでいろいろ大変だろうけど、頑張って」

「はい、もちろんです。私、ライル様のためなら、何でもやります」

「何でもか……それは、今、あいつに言わない方がいいな」

「え?」

「いや、何でもない。じゃあ、僕はそろそろ帰るよ」

ソファーから立ち上がりながら、僕も早く好い人見付けよう、と思うアンドリューだった。

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