伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
え、なんで……? そんな……伯爵様のせいじゃないのに……!

高貴な方に、こんな顔をさせてしまうなんて……!

クレアは恐縮して、慌てて首を横に振った。

それに、今回クレアが初めて夜会に出席したということも見抜ぬかれていて、さすがだと思った。

「……私なら、大丈夫ですから。そんな、お気になさらないで下さい。 私が軽率……だったんです……!見ず知らずの人に……付いていったりしたから……!」

「……」

まるでライルを慰めるかのように一生懸命に言葉をつむぐクレアに、ライルは少し驚いたようにあっけに取られていたが、やがて、ククッと喉を鳴らして、小さく笑った。

「……君は、面白い女性だね」

「え……」

今、笑われた……?

「俺の周りには、いないタイプだよ」

「……」

……そりゃそうでしょう、とクレアは思った。だって、自分は本当は令嬢でもなんでもない。ライルの周りにいなくて当然だ。

でも、こんな素敵な男性に面白いと言われたのは、さすがにショックだ。クレアはしゅんとなって肩を落とす。

「失礼。とても可愛いということだよ」

えっ?とクレアは顔を上げた。面白いと可愛いがなぜ同じ意味なのか理解出来ないが、そう言われて、かああっと頬が熱を帯びた。

でも一方で、もしかしたら女性慣れしているだけかもしれない、と冷静な自分も降りてきた。

だって、面白い、って言われたのよ……。本気にしない、本気にしない……。

呪文のように心の中で繰り返すと、彼女の前にライルの手がスッと差しのべられた。



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