伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
一体どういうことなのか。少なくとも、クレアが一方的に悪者になっていることだけは、明らかだ。

弁明しようとして、クレアは顔をしかめた。男の名前と共に、昨日の嫌な記憶がよみがえったからだ。

そんなクレアの心情を知るよしもなく、夫人は責めるように言葉を続ける。

「気分転換にと、あなたを庭に連れ出してくれたのに、よろけた体を支えられてお礼も言わずに、逆に触られたと騒いで叩いたというじゃないの!」

「違います……! あの方が、先に腕を……」

「まあ、この期に及んで言い訳するつもりなの!? それに、手癖も悪くて……これだから、育ちの良くない娘は!」

クレアの言葉は、金切り声を上げる夫人によって遮られた。

駄目だ。何を言っても聞いてもらえそうにない。

今、夫人は頭に血が上り、聞く耳を持っていない。少し待ってみた方がいいのかと考えているクレアを見て、反省していると思ったのか、夫人は少し声のトーンを下げた。

「でも、幸い、トシャックさんはあなたがある条件を飲めば、許してくれるそうよ。簡単なことだわ」

「……条件……?」

「ええ。あなたが彼の元に嫁ぐというね」

「えっ……!?」

クレアは言葉を失った。嫁ぐ……つまり、結婚しろということか。

それのどこが、簡単なことなのだろう……!


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