伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
Ⅱ
婚約は出来ません
ライルが去ってからというもの、クレアは案の定、落ち着かなかった。
そのせいで客に違った商品を提供したり、釣り銭を間違えたり、慌ててしまって茶葉を床にぶちまけたり、と散々だった。
でも、いつもの見慣れた光景の中で、いつものように働いている。
なので、ライルの発言も、いや、ライルがここに現れたこと自体、夢だったのではないかという感覚に陥りそうになる。
婚約の話も……ライル様の気の迷いよ……きっと。
そう思って何とか平常心を保とうと努めるのだが、その後も何度か失敗を繰り返し、結局無駄だった。
今日はもうダメね……と、普段より少し早めに店じまいして、アディンセル邸に戻ると、早速、父親の部屋に呼ばれた。
今日は起き上がれるほど体調が良いのか、ソファーに腰掛けている。
その横には、気持ち悪いほどの笑みを浮かべた義母が座っていた。
「クレア、お前にブラッドフォード伯爵から縁談の申し込みがあった」
クレアの体が固まる。
……やっぱり夢じゃなかったのね……。
「お前と以前から知り合いで、最近恋仲になっていたとは、知らなかった」
……はい、なぜかそういうことになってしまいまして……。
とは、なかなか言い出しにくい。
「我が家としては申し分のない相手だが、お前はどう思う?」
伯爵が静かに尋ねた。
「それは、もうお受けしないはずはありませんわ」
クレアが答える前に、横から伯爵夫人が口を開いた。
そんな妻を伯爵はチラリと見て、「私はクレアに聞いている」と釘を刺す。夫人はハッと口をつぐんだ。
「私はお前の意見も聞きたいのだよ。どうかね?」
「……それは……」
そのせいで客に違った商品を提供したり、釣り銭を間違えたり、慌ててしまって茶葉を床にぶちまけたり、と散々だった。
でも、いつもの見慣れた光景の中で、いつものように働いている。
なので、ライルの発言も、いや、ライルがここに現れたこと自体、夢だったのではないかという感覚に陥りそうになる。
婚約の話も……ライル様の気の迷いよ……きっと。
そう思って何とか平常心を保とうと努めるのだが、その後も何度か失敗を繰り返し、結局無駄だった。
今日はもうダメね……と、普段より少し早めに店じまいして、アディンセル邸に戻ると、早速、父親の部屋に呼ばれた。
今日は起き上がれるほど体調が良いのか、ソファーに腰掛けている。
その横には、気持ち悪いほどの笑みを浮かべた義母が座っていた。
「クレア、お前にブラッドフォード伯爵から縁談の申し込みがあった」
クレアの体が固まる。
……やっぱり夢じゃなかったのね……。
「お前と以前から知り合いで、最近恋仲になっていたとは、知らなかった」
……はい、なぜかそういうことになってしまいまして……。
とは、なかなか言い出しにくい。
「我が家としては申し分のない相手だが、お前はどう思う?」
伯爵が静かに尋ねた。
「それは、もうお受けしないはずはありませんわ」
クレアが答える前に、横から伯爵夫人が口を開いた。
そんな妻を伯爵はチラリと見て、「私はクレアに聞いている」と釘を刺す。夫人はハッと口をつぐんだ。
「私はお前の意見も聞きたいのだよ。どうかね?」
「……それは……」