伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
口ごもるクレアに夫人は貫くような鋭い視線を送っている。

お前ごときが断れる立場ではない、余計なことは口にするな、さっさと受けてしまいなさい、とでも言っているようだ。


ここで、「よく分からないんです」などと言おうものなら、夫人にたちまち嘘がばれてしまう。

それに、その嘘に乗ってくれたライルの面目も潰してしまうことになるだろう。

その真意はいまだに不明だが。

ライルに聞きたいことは山ほどある。

何にせよ、彼とはもう一度会う必要があるのは確かだ。

「……私をライル様の所に行かせて下さい」

クレアの言葉を、伯爵は結婚の意志の現れと捉えたらしく、「そうか、分かった」と静かに頷いた。

「では、そのように返事をしよう。伯爵どのは結婚前に更にお互いの気持ちを確固たるものにしたいと仰っていてね。すぐにでもお前にブラッドフォード邸に来てほしいと申し出があった」

「えっ」

「彼は誠実で真面目な人間なのは私も知っている。一緒に暮らすといっても、まだ夫婦ではないから、寝室を共にするわけでない。彼は伝統ある名門一族の当主だ。紳士としての振る舞いをもって、お前を迎えてくれると思う」

「……」


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