伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
……急に唇にキスしてくるのは紳士的なんですか……?

などと、恥ずかしくて口が裂けても聞けるはずがなかった。

でも結婚して、育った環境も違うクレアを見て、がっかりされ離縁されるよりは、今、ありのままの自分を見せた方がいいかもしれない、とも思う。

同意の上なら、婚約解消も可能なはず。

すると、伯爵が急に咳き込んだ。少し起き上がる時間が長かったのだろう。

心配そうに夫人が背中をさすりながら、話は終わったのだから退出しなさい、とでも言うようにクレアとドアを交互に見た。

「……先方の仰る通りにします。お父様、ゆっくりお休み下さい」

と、クレアは言い残し、そのまま部屋を出た。



伯爵は最後まで生活援助金の話はしなかった。

娘に後ろめたかったのか、両家の当主同士が取り決めることなので、わざわざ娘に聞かせる話ではない、と思ったのかもしれない。

それと同時に、ブラッドフォード家からの要求を断る力がこの家にはないことを、クレアは感じていた。



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