伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
同じ伯爵家でも、自分の実家とは格が違う。

その壮麗さに見とれていたクレアだったが、

「こちらでございます」

ローランドの声にハッと我に返り、その後に慌てて続いた。

明るく広い廊下を進み、とある部屋の前の扉をローランドがノックする。

「旦那様、クレア様がいらっしゃいました」

中からライルの返事が聞こえ、クレアは彼の顔とキスを思い出し、一気に胸が高鳴るのを感じた。

ローランドが開けてくれたドアから中に入ると、そこは応接間のようだった。

天井の中央から吊り下げられたシャンデリアは繊細な装飾が施されていて、一瞬心を奪われる。

ローテーブルの四方を囲っているのは、ゆったりとした、金糸の刺繍模様が美しいソファー。

今は春なので火は入っていないが、冬にはこの広い部屋を暖めるのには充分な大きさの暖炉もある。

壁に飾られているのは、色彩の豊かな絵画の数々。

そして--陽の光がたっぷり入る窓際に、この館の主人は立っていた。

「やあ、クレア。来てくれて嬉しいよ」

ライルは微笑みながら、クレアを歓迎した。

光が金色の髪を照らし、キラキラと反射している。

その姿に思わず見とれてしまい、ドア付近で動けなくなってしまっていたクレアの背後でドアの閉まる音が聞こえた。執事が外から閉めたようだ。

部屋にはライルと二人きり。

「こっちにおいで」

クレアの小さな手をライルは優しく取るとソファーまで連れていき、座るように促した。


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