伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約

雇われて、新生活

応接間を出てジュディに案内されたのは、これからクレアが使用する二階の部屋だった。

「こちらでございます」

ドアをジュディが開けて、クレアは中に入った。

部屋は南に面していて、窓からたっぷりと陽射しが降り注いでいる。部屋中を満たす暖かい空気を肌で感じ、クレアの緊張も少し和らいだ。

アディンセル邸での自室よりも広い空間に、ソファーセット、本棚、調度品、筆記用の机、肘掛け椅子などが配置されている。

あら……? ベッドは?

と不思議に思っていると、ジュディが奥の続き部屋のドアを開けた。

「こちらが寝室でございます」

中を覗くと、そこには白い天蓋付きのベッドが置いてあった。

幅も広く、二人以上、いや四人でも充分眠れそうなほどだ。少しその上を手で押さえてみると、しっかりとスプリングも利いている。

その横の部屋は衣装室になっていて、その奥はクレア専用の浴室に続いていた。わざわざ廊下に出なくても、続きのドアで全ての部屋に行き来が可能になっている。

実家では、一つの部屋に全ての家具が収まっていたので、それが普通だと思っていたクレアは、改めてブラッドフォード邸の贅沢な造りに驚かされるばかりだ。

専用の浴室など、考えたことも無かったので、言葉も出ずに、その入り口で立ち尽くしていると、ジュディに声を掛けられた。

「クレア様。こちらへどうぞ」

促されるまま衣装部屋に入ると、ジュディがドレスを用意して待っていた。赤に近い濃いピンク色のタフタ生地のドレスで、同系色のレースが首回りを飾り、膨らんだスカート部分にもふんだんに使用されている。


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