伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
ライルが嘆息して、振り返る。

「ほら見ろ。お前が来るから、俺の可愛い婚約者がご機嫌斜めだ」

「僕のせいじゃないだろ!明らかに、お前のおかしな頭のせいだっ!」

二人のやり取りを聞きながら、クレアは初めてその青年の姿をまじまじと見た。

明るめの茶色の髪に、鳶色の瞳。目鼻立ちは整っていて、身に付けている上着も上質なことが一目で分かる。

若干、ライルよりも背が低いが、それでも長身なことには変わりなく、ライルと並んでも引けを取らないほどの容姿の持ち主だ。

クレアが黙っていることに気付いたライルは、彼女の方へ向き直った。

「ああ、すまない。紹介するのが遅れたね。彼はアンドリュー・イーストン。俺の父の妹の嫁ぎ先、イーストン子爵家の跡取り息子だ。歳は俺より一つ下」

つまり、従兄弟の関係だ。ライルの親族に会うのは、クレアにとって、これが初めてのことだ。

「……初めまして。クレア・アディンセルと申します。お会い出来て光栄です」

少し緊張しながら、スカートを少しつまみ、背筋を伸ばしたまま、ゆっくりと膝を折って、挨拶をする。これまで礼儀作法のレッスンで習ったことを思い出しながら、所作に反映させていく。

上手く形になっているか自信は無いが、変におどおどしているとかえって見るに耐えませんわよ、と教師からも散々教えられた。不安を表に出せない分、そこは微笑でカバーだ。

すると、青年――アンドリューが前に歩み出て、クレアの手をそっと取った。


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