雀の恩返し
消えた記憶
びょういんのベッドで、お父さんは白いほうたいでグルグルまきにされていた。
細いコードがいっぱい体から出ていて
キカイとつながっている。
かんごしさんがいっぱいバタバタ走ってるよ。
うんどう会みたい。
お父さんのちかくに行きたいけど
じゃまになるから行けない。
じゃまは一番してはいけない。
お母さんにおこられるから
たたかれていたくなるから。
でも今はお母さんが、かんごしさんをじゃましてる。
「どうしてくれるのよ。あんな事故起こしてそんな身体になって。どーすんのよこれから!」
お母さんはお父さんにおこってる。
かんごしさんたちはムッとしてる。
「賠償金がいくらかかると思ってんのよ。こんなガキ背負ってどうやって生活すりゃーいいのよ」
お母さんがわたしを見てコワいかおをする。
「こっち見るな!どっか行け!」
大きなこえで、おこられたから
わたしは走ってへやを出た。
ほんとうはお父さんのそばにずっといたかった。
お父さんがしんぱいだけど
お母さんにおこられて
たたかれるのはイヤだった。
行くばしょがないから
ジュースと本がある広いばしょに行ったら、いろんな人がいっぱいいた。
びょういんの先生とカメラとマイクをもった人たちがケンカしている。
「加害者の容態はどうなんですか?」
「運転前に薬を服用していた疑いがあるのですが。どうでしょう?」
「超過勤務で過労が原因ですか?本人の意識はありますか?罪の意識は?」
むずかしいお話でケンカをしてるみたい
よくわからないけど
ここは鈴芽のいるばしょじゃない。
わたしはかいだんを上がって、びょういんのおくじょうへ出た。
すずしい風がきもちいい。
とってもきもちがいいよ。
海がキラキラしているよ。
お父さんにも見せたいな。
お父さん
この海を見たら
元気になるかなぁ。