雀の恩返し
だから僕は犬を飼えない
「そんじゃ外回り付き合って」
「え?」
「お願いしまーす」
嫌な顔をするイケメンの腕を取り、僕らは会社を後にする。
「暑いからヤダー」
女の子みたいに語尾を伸ばすのは止めなさい。
「アイスコーヒーおごるから」
僕は口先だけ彼に言い
ドラッグストアをどう回ろうか考えていると
頭の上から声が聞こえた。
頭の上?
「ごしゅじんさまーーー」
振り返りたくない。走って逃げたい。
「すげー。見ろよあの子。落ちそう」
感心しながら中岡は僕に言う。
余計振り返りたくない。
「こっち見て手を振ってるよ。かわいいなぁ」
中岡が手を振ったので、恐る恐る振り返ると
高層ビルの20階ぐらいで、小さなクレーンに操られながらスズメがこちらを見て手を振っていた。
「危ないっ!動くな」
僕が大きな声で彼女に言うと、スズメは僕に見つけてもらった嬉しさなのか、その場所で軽くジャンプする。
吐きそう。僕が倒れそう。
どうして臨時社員がそんな危ない窓拭きなんて。
きっと自ら名乗り出たのだろう。
あぁもう心臓に悪い。
「行こう」
僕は中岡の肩を抱き引っ張った。
「ご主人様、行ってらっしゃいませー!今日はいい仕事しましたねー。つがいに一歩近づきましたー!」
さっきの木之内さんの事だろうか。
スズメは僕の職場での行動を全て見透かしているよう。
職場でWi-Fiと一緒に飛んでるとか?
「いやー可愛い子だねー。高校生ぐらいかな」
感心しながら中岡は僕に笑ってそう言った。
年令不詳のスズメです。