雀の恩返し
「今日も予定がありますか?」
すれ違う廊下で、木之内さんは僕に言う。
明るいベージュのワンピースに紺色の薄手カーディガン。
髪も下ろして女性らしく柔らかい雰囲気。
顔も綺麗だからモデルのよう。
入社当時のギスギスした表情はない。
「綺麗な髪してるね」
艶があってクルクル巻いてる。
女の人って大変だよね。
メイクして髪も綺麗にして。
これはお弁当を作る暇もないだろう。
うちのスズメなんて
髪を洗った後にドライヤーを使ったためしがない。
プルンプルンとリアル雀のように水気を切り、あとは自然乾燥。
それだけで彼女の短い茶髪はふんわりとセットされる。
不思議。さすが鳥。
ふと
思いついた事を言うと、木之内さんの顔が真っ赤になり
「からかわないで下さい」って
プンと怒って
僕の返事も聞かずに
そのまま大股で歩いて行ってしまった。
あれ?何か間違ったかな?
うーんと悩んでいると
「早く追いかけろ!」
いきなり背中で怒られた。
またスズメか?って振り返ると中岡が立っていた。
「亀ちゃん……」
中岡は僕の肩に手を置き、身体中の酸素を全て出しきったような溜め息をして
「お前ってヤツは本当に……ダメだわ」
しみじみ言われた。
いや
中岡君に言われたくないんですけど。