雀の恩返し

「亀山さんが、私を救ってくれました。命の恩人です」

彼女の口調に笑ってしまった。
命の恩人ってまるでスズメ。
命の恩人が流行ってる?
僕は何人救ってるんだろ。

「冗談じゃないんです!」
急に目を大きく開いて、木之内さんは僕の頬を両手で挟む。

「私は亀山さんが好きです」

「うん……はっ?えっ?」

「ずっと好きです。優しくて尊敬できる人です」

真剣な彼女の目から涙がこぼれる。

「いや僕は……」

「私を好きになって下さい」

「え?」

「私が嫌いですか?」

嫌い?
いや、彼女を嫌う理由はない。

「嫌いじゃないよ」

狭い空間で圧倒され
心臓をバクバクさせながら、そんな言葉しか出てこない僕。

中岡ならもっと気の利いたセリフを言えるのだろう。
本当にうらやましい。
今、この瞬間だけ中岡になりたい。

「じゃキスして下さい」

「は?」

「キスして」

酔いのせいか
はたまた別の理由なのか
彼女の顔は真っ赤で、僕の頬を挟んでいた手はスルリと落ちてスーツの袖口をつかんでる。

いじらしい様子は本当に愛らしく
綺麗な女性だけど
今は一途で本当に可愛らしい。
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