雀の恩返し
その夜。
久し振りにあの夢を見た。
夢の中
僕は小学校の高学年。
家の中で二つ上の兄と両親と四人でトランプをしている。
子供の頃に住んでいた
そんなに広い家じゃないけれど
母がいつも丁寧に掃除をしてホコリひとつなかった。
優しくて料理上手な母。
怒ったら怖いけど
いつも楽しい話をしてくれる父。
両親は僕と兄を見守り
沢山の愛情を与えてくれた。
兄は陸上競技が得意で
小学生から短距離で記録を更新して、将来有望な陸上選手だった。
僕は兄が大好きで
たまにケンカもするけれど
お互いが大好きだったと思う。
夢の中では冬なのだろう。
四人でコタツに入ってトランプをしていた。
父がズルして兄に怒られたり
母はいつも笑ってたり
僕は幸せだった。とっても楽しくて嬉しかった。
そしてトランプを続けていると
兄がジョーカーを引いたらしく「僕は先に行くよ」って言い、コタツの中にズルズルと引きずられて消えてしまった。
僕は驚いて兄の名を呼ぶけれど返事はない。
兄はコタツの中から戻らず
コタツに飲み込まれてしまった。
「お父さんもだな」
次にトランプを引いた父がポソリと低い声を出し、また兄と同じくコタツに引きずり込まれた。
僕は驚いて声も出ない。
ただ泣きながら父と兄の名を呼んでコタツをめくるけど、コタツの中は普通の景色。
畳の上にあるコタツ。
誰もいない。
兄も父もいない。