この想いが届くまで
「なに見てるの?」
「んー? なんか若い社長の特集みたいなのやってる」
「ふーん」
何気なくテレビに目を向けながら座ろうとしたその時だった。未央の動きが止まり手に持っていた郵便物が床に落ちた。
「あ、ここの会社私の友達が勤めてるとこじゃん。なんかね~」
志津加の声も未央の耳には届かない。
「って、おーい。未央? 聞いてんの!?」
自分ばかりがしゃべって返事がない未央を不審に思って志津加が振り返る。すると未央は立ち尽くしたままじっと食い入るようにテレビを見ている。
「こ、こ、この男の人……!」
忘れもしない。整った顔立ち、深い色をしたクールな瞳、そしてテレビを通して脳にしっとりと響く低い声。バーで出会ったその日に一夜を共にした男だった。一気にあの夜の情事がよみがえってきて体が熱くなる。
「どしたの? 顔赤くない?」
「あ、あのね……この人」
「社長? やだぁ、なに画面の中の人に惚れてんの?」
「ち、違っ……」
「たしかに格好いいけど、この人。友達が言ってたんだけどさ、同性愛者って噂あるらしいよ?」
「……は?」
「聞いた話だけどさ。まだ社長になってそんな経ってないみたいなんだけど、社長になってまずやったことが、秘書を男にして、社内恋愛禁止っていうルール作って~。九割が女社員の会社なのに、誰も社長に会ったことがないし会えないし、要件があるときはすべて周りの人間、もちろん男ね。その男の秘書だのなんだなのを通さなきゃいけないらしくって」
「社長に直接会う前に秘書通すのはよくあることだと思うし、社内恋愛禁止もそれだけで別にホモだとは……」
「これだけのいい男が、三十代半ばにして未だ独身。女なんてよりどりみどりでしょ」
「ただ結婚したくないだけじゃない? ほら、社長だし、仕事あるし!」
「どうしたの? ムキになって」
「あ、いや……」
同性愛者ではないと思った。たしかにあの腕が自分を抱いたのだから。収まることのない胸の鼓動を必死に隠しながら座ろうとするとさっき届いた郵便物を足で踏んだ。テレビを見た瞬間動揺して落としてしまったものだ。
「それ。さっきのピンポンは郵便だったんだ」
「うん。……あ、この間受けた会社の合否通知だ」
「どれどれ!」
座ってテーブルの上に郵便物を置くと、志津加がそれを手に取った。
そして封筒に書かれた社名を見て声を上げた。
「ウケる! マジで!?」
「な、なによ……?」
「ここじゃん!」
「?」
ここと言って志津加が指をさした先には、テレビの中でインタビューに答える社長。
「……うそ……えぇっ!?」
「うわっ、急に大きな声出さないでよ!」
自分が受けた会社の社長が、あの一夜を過ごした男……?
再び未央のもとに戻ってきた合否通知を持つ手は震えている。突然の緊張感漂う空気に、志津加も姿勢を正す。
「……結果は?」
ゴクリと未央の喉がなる。封を切って、恐る恐る中身を取り出す。二つ折の用紙をゆっくりと開く。
「ご、合格……」
「まじ!? やったじゃん! おめでとう!!」
「来週、最終面接……」
「……は? なんだぁ~!」
はしゃぐ志津加とは対照的に未央は合格通知を呆然と見つめている。
こんなことが現実に起こり得るの?
それから数日間、半信半疑、現実味を帯びないまま最終面接の日を迎えた。
「んー? なんか若い社長の特集みたいなのやってる」
「ふーん」
何気なくテレビに目を向けながら座ろうとしたその時だった。未央の動きが止まり手に持っていた郵便物が床に落ちた。
「あ、ここの会社私の友達が勤めてるとこじゃん。なんかね~」
志津加の声も未央の耳には届かない。
「って、おーい。未央? 聞いてんの!?」
自分ばかりがしゃべって返事がない未央を不審に思って志津加が振り返る。すると未央は立ち尽くしたままじっと食い入るようにテレビを見ている。
「こ、こ、この男の人……!」
忘れもしない。整った顔立ち、深い色をしたクールな瞳、そしてテレビを通して脳にしっとりと響く低い声。バーで出会ったその日に一夜を共にした男だった。一気にあの夜の情事がよみがえってきて体が熱くなる。
「どしたの? 顔赤くない?」
「あ、あのね……この人」
「社長? やだぁ、なに画面の中の人に惚れてんの?」
「ち、違っ……」
「たしかに格好いいけど、この人。友達が言ってたんだけどさ、同性愛者って噂あるらしいよ?」
「……は?」
「聞いた話だけどさ。まだ社長になってそんな経ってないみたいなんだけど、社長になってまずやったことが、秘書を男にして、社内恋愛禁止っていうルール作って~。九割が女社員の会社なのに、誰も社長に会ったことがないし会えないし、要件があるときはすべて周りの人間、もちろん男ね。その男の秘書だのなんだなのを通さなきゃいけないらしくって」
「社長に直接会う前に秘書通すのはよくあることだと思うし、社内恋愛禁止もそれだけで別にホモだとは……」
「これだけのいい男が、三十代半ばにして未だ独身。女なんてよりどりみどりでしょ」
「ただ結婚したくないだけじゃない? ほら、社長だし、仕事あるし!」
「どうしたの? ムキになって」
「あ、いや……」
同性愛者ではないと思った。たしかにあの腕が自分を抱いたのだから。収まることのない胸の鼓動を必死に隠しながら座ろうとするとさっき届いた郵便物を足で踏んだ。テレビを見た瞬間動揺して落としてしまったものだ。
「それ。さっきのピンポンは郵便だったんだ」
「うん。……あ、この間受けた会社の合否通知だ」
「どれどれ!」
座ってテーブルの上に郵便物を置くと、志津加がそれを手に取った。
そして封筒に書かれた社名を見て声を上げた。
「ウケる! マジで!?」
「な、なによ……?」
「ここじゃん!」
「?」
ここと言って志津加が指をさした先には、テレビの中でインタビューに答える社長。
「……うそ……えぇっ!?」
「うわっ、急に大きな声出さないでよ!」
自分が受けた会社の社長が、あの一夜を過ごした男……?
再び未央のもとに戻ってきた合否通知を持つ手は震えている。突然の緊張感漂う空気に、志津加も姿勢を正す。
「……結果は?」
ゴクリと未央の喉がなる。封を切って、恐る恐る中身を取り出す。二つ折の用紙をゆっくりと開く。
「ご、合格……」
「まじ!? やったじゃん! おめでとう!!」
「来週、最終面接……」
「……は? なんだぁ~!」
はしゃぐ志津加とは対照的に未央は合格通知を呆然と見つめている。
こんなことが現実に起こり得るの?
それから数日間、半信半疑、現実味を帯びないまま最終面接の日を迎えた。