この想いが届くまで
 女は都心にそびえるビルを見上げごくりと息をのみ込んだ。
 ついに来た最終面接の日。未央は通知を受け取った日から一週間、気持ちの落ち着かない緊張した日々を過ごしてきた。そして今が緊張のピークだ。
 一次も二次の面接もごく一般的な質問しかされなかった。特に面接官が興味を持って聞いてきたことは前職のこと。六年勤めた化粧品メーカー。業種は違えど女性中心の会社、そして女性のためのものを世に送り出す仕事。前職での経験を踏まえ活かしていけるところは大いにあると、受け答えには困らなかった。いつも通りの自分で行けば大丈夫。そう自分に言い聞かせゆっくりと足を前に進めた。
 本当なら、こんなにも緊張した最終面接にはならなかったはずだ。原因は分かっている。一週間前に見たテレビ番組だ。そのテレビ番組に、今から面接を受ける会社の社長が紹介されていて、その社長が未央の知っている人物だったからだ。二度と会うことのないと思っていた人だった。
「槙村さん、どうぞ」
 待合室でついに自分の名前が呼ばれた。一次、二次と面接してくれた聞き覚えのある人の声で名前が呼ばれ、未央はほっとした。そうだ、今日自分は面接に来たんだ。今から自分が対面するのは面接官だ。面接とは関係ないところに動揺していてどうする。未央は心の中で自分に喝を入れ立ち上がった。
「失礼します」
 ノックをし堂々と胸を張って面接官の待つ部屋へと足を踏み入れた。一礼して顔を上げた次の瞬間、息が止まった。
 向かって右、優しい面持ちの男性は人事部長だ。一次二次と面接官を務めた。向かって左、品のある上品な女性は未央が配属される広報部の課長だ。そして中央、その二人の間に座るのは、社長である西崎だ。思いもよらない形での再会で動揺する未央とは対照的に西崎は落ち着いた様子で口を開いた。

< 12 / 69 >

この作品をシェア

pagetop