この想いが届くまで
05 思いがけない再会3
足を踏み入れるのは二度目だが、はじめて訪れた場所のように緊張していた。勇気を出して扉を開ける。雰囲気だで酔えてしまいそうな重厚で大人な雰囲気の店内は普段自分がお酒を飲みに行くにぎやかな店とはまるで違う。すぐに未央の来店に気づいた店員にカウンターへ案内される。前回来たときはどの席に座ったのだろう。覚えていない。
「何にいたしましょうか?」
「あ……」
バーテンダーに注文をたずねられるが、メニューがない。緊張からかカクテルの名前が出てこない。未央は失礼にならないよう、できるだけ細かく酒の内容を伝えた。
「アルコール度数の低いもので、さっぱりした飲みやすいものをお願いできますか」
カクテルが届くと、まずは一口。すっきりとした味わいに肩の力が抜けていく。スーツのジャケットを脱ぎ、まとめていた髪をほどいて一息ついた。
最終面接の通知が届いてから今日まで長い一週間だった。面接の場に西崎がいたのは想定外だったが、無事終えた。未央はほっとしていた。
いつの間にか店に来たばかりの時のような緊張感は完全に抜け、落ち着いた雰囲気にリラックスしてお酒を飲んでいた。隣に人が座る気配がして未央はふと思い出す。
あの夜、社長が隣に座っていたなんて信じられない。夢だったのかしら。酒と店のムードに酔った未央はぼうっとそんなことを考えていた。
「今日はずいぶんと大人しいんだな」
突如話しかけられる。ぼんやりとした意識のまま隣に目をやると、一気に脳内が覚醒する。本当に驚いたときは声が出ない。そのまま時が止まったかのように硬直する。でもすぐに、バーテンダーがやってきて、隣の人物が注文したドリンクがテーブルに置かれはっと我に返る。
「こ、ここへは……よく、来るんですか……?」
「いや。二度目だ。今日は、君に会えるような気がして」
視線を感じるけど目が合わせられない。隣に座ったのは西崎だった。未央は口を閉じたまま前を向き、自分の飲みかけのカクテルをじっと見つめた。
「驚いたよ。まさか君がうちを受けにくるなんて」
うるさい心臓を押さえつけるようにぐっと息をのみ込んで、なんとか言葉を発した。
「知らなかったんです。私……。あなたが社長の会社だなんてまったく、知らずに……」
「分かってるよ。……思い出すな。勘違いするなと怒鳴りつけられたこと」
「ご、ごめんなさい……!」
消え入りそうなほど小さな声。
「まるで別人だな。ま、仕方がないか」
あの初対面の夜と今では立場が変わってしまった。同じように同じ態度で接することができるわけがなかった。それにあの夜は、失恋のショックと裏切りに対する苛立ちで自暴自棄になっていた。
「そう緊張しないでくれ。今はただの男と女。対等に話をしよう」
「無理ですよ……」
「命令だと言ったら?」
「むちゃくちゃです……」
西崎はらちが明かない様子に見切りをつけ、今だ緊張に肩の力が入ったままの未央を置き去りにして話を進めた。
「何にいたしましょうか?」
「あ……」
バーテンダーに注文をたずねられるが、メニューがない。緊張からかカクテルの名前が出てこない。未央は失礼にならないよう、できるだけ細かく酒の内容を伝えた。
「アルコール度数の低いもので、さっぱりした飲みやすいものをお願いできますか」
カクテルが届くと、まずは一口。すっきりとした味わいに肩の力が抜けていく。スーツのジャケットを脱ぎ、まとめていた髪をほどいて一息ついた。
最終面接の通知が届いてから今日まで長い一週間だった。面接の場に西崎がいたのは想定外だったが、無事終えた。未央はほっとしていた。
いつの間にか店に来たばかりの時のような緊張感は完全に抜け、落ち着いた雰囲気にリラックスしてお酒を飲んでいた。隣に人が座る気配がして未央はふと思い出す。
あの夜、社長が隣に座っていたなんて信じられない。夢だったのかしら。酒と店のムードに酔った未央はぼうっとそんなことを考えていた。
「今日はずいぶんと大人しいんだな」
突如話しかけられる。ぼんやりとした意識のまま隣に目をやると、一気に脳内が覚醒する。本当に驚いたときは声が出ない。そのまま時が止まったかのように硬直する。でもすぐに、バーテンダーがやってきて、隣の人物が注文したドリンクがテーブルに置かれはっと我に返る。
「こ、ここへは……よく、来るんですか……?」
「いや。二度目だ。今日は、君に会えるような気がして」
視線を感じるけど目が合わせられない。隣に座ったのは西崎だった。未央は口を閉じたまま前を向き、自分の飲みかけのカクテルをじっと見つめた。
「驚いたよ。まさか君がうちを受けにくるなんて」
うるさい心臓を押さえつけるようにぐっと息をのみ込んで、なんとか言葉を発した。
「知らなかったんです。私……。あなたが社長の会社だなんてまったく、知らずに……」
「分かってるよ。……思い出すな。勘違いするなと怒鳴りつけられたこと」
「ご、ごめんなさい……!」
消え入りそうなほど小さな声。
「まるで別人だな。ま、仕方がないか」
あの初対面の夜と今では立場が変わってしまった。同じように同じ態度で接することができるわけがなかった。それにあの夜は、失恋のショックと裏切りに対する苛立ちで自暴自棄になっていた。
「そう緊張しないでくれ。今はただの男と女。対等に話をしよう」
「無理ですよ……」
「命令だと言ったら?」
「むちゃくちゃです……」
西崎はらちが明かない様子に見切りをつけ、今だ緊張に肩の力が入ったままの未央を置き去りにして話を進めた。