この想いが届くまで
外へ出るとさっきまでは降っていなかった雨が降っていた。雨よけのある店先でいったん立ち止まる。
「あの、お金払います」
「いや、いいよ」
未央の支払いを断ると西崎はスマートフォンを取り出し操作すると耳にあてた。
未央の飲んだカクテルの支払いもまとめて西崎が済ませてくれた。今日だけじゃない。前に一度ここで会った時の支払いも彼がしてくれ、あの日はホテル代も自分で払った記憶がない。すべて西崎が済ませたのだ。せめてお礼の言葉だけでも伝えた方がいいのだろうか。でも、今になってあの日のことを思い出させるようなことを自らするのは気が引けた。未央は無難に、伝える気があるのかないのかわからないような小さな声で「ありがとうございます」と言った。
「家どこ? 迎え呼んだから送ろうか?」
「いや……いえ、結構です。まだそう遅い時間でもないので」
「雨降ってるけど? 傘持ってないだろ?」
「走るんで」
「遠慮するなよ。別になにもしない」
「なっ……」
「君もなんだかあの夜とは別人のようだし」
「これがっ、ほ、本当の私です……」
「だろうな。ま、俺も今日はそんな気分じゃない」
未央は混乱していた。この人は、これから自分が勤める会社の社長だ。その人と普通に一緒に飲んで、会話して、これから自宅に送ってもらおうとしている?
「あの、やっぱり……」
ただの社長と社員ならまだしも、一度関係を持ってしまっている以上、やっぱりこれ以上の関わりは避けるべきだ。断って逃げるようにしてその場を立ち去ろうとしたその時だった。
「未央……? やっぱり未央だ!」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれて振り向く。
傘を差した遠藤と、少し遅れて彼の後ろから姿を現したのは理沙だった。
「あの、お金払います」
「いや、いいよ」
未央の支払いを断ると西崎はスマートフォンを取り出し操作すると耳にあてた。
未央の飲んだカクテルの支払いもまとめて西崎が済ませてくれた。今日だけじゃない。前に一度ここで会った時の支払いも彼がしてくれ、あの日はホテル代も自分で払った記憶がない。すべて西崎が済ませたのだ。せめてお礼の言葉だけでも伝えた方がいいのだろうか。でも、今になってあの日のことを思い出させるようなことを自らするのは気が引けた。未央は無難に、伝える気があるのかないのかわからないような小さな声で「ありがとうございます」と言った。
「家どこ? 迎え呼んだから送ろうか?」
「いや……いえ、結構です。まだそう遅い時間でもないので」
「雨降ってるけど? 傘持ってないだろ?」
「走るんで」
「遠慮するなよ。別になにもしない」
「なっ……」
「君もなんだかあの夜とは別人のようだし」
「これがっ、ほ、本当の私です……」
「だろうな。ま、俺も今日はそんな気分じゃない」
未央は混乱していた。この人は、これから自分が勤める会社の社長だ。その人と普通に一緒に飲んで、会話して、これから自宅に送ってもらおうとしている?
「あの、やっぱり……」
ただの社長と社員ならまだしも、一度関係を持ってしまっている以上、やっぱりこれ以上の関わりは避けるべきだ。断って逃げるようにしてその場を立ち去ろうとしたその時だった。
「未央……? やっぱり未央だ!」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれて振り向く。
傘を差した遠藤と、少し遅れて彼の後ろから姿を現したのは理沙だった。