この想いが届くまで
まるでホテルのような重厚感と風格のあるエントランスを抜けエレベーターに乗り込む。
乗車してからほんの十分ほどで車は停車した。それから車に乗り込んだ時と同じように抱きかかえられ、どこかわからない場所に連れていかれている。
「では、私はここで」
エントランスとエレベーターのオートロックを解除したところで、車に同乗していた西崎の秘書の一人である百瀬は立ち去った。
借りてきた猫のように西崎の腕の中で大人しくしていた未央だったが、二人きりになってはっと我に返る。
「二十一階、押してくれるか」
「お、おお降ろしてください」
「この脚で歩けるのか? 血がすごいぞ」
「あっあぁっ! 服が、服が汚れちゃいます」
「別にいい」
「二十一」。もう一度階数を言われ、両手がふさがって押せない西崎の代わりに未央は目の前のボタンを押す。
そして部屋の前につくと、無意識のうちに未央の手の中におさめられていた鍵で扉を開けるよう指示する。百瀬が立ち去り際に未央の手に握らせたものだ。
鍵を開け広く生活感のない玄関で靴を脱ぐ、というより無造作に落としそのまま部屋の中へと立ち入るとソファの上に降ろされた。
「ここは?」
「俺の家」
「え……?」
驚いて放心していると、いつの間にかいなくなっていた西崎が小箱をもって戻ってきた。
「脱げるか?」
「……は?」
「ストッキング」
突然、ストッキングを脱げと言われて動揺する。
「手当、できないだろ?」
そう言われ自分の膝に目を向け、さらに気持ちが動揺した。ストッキングは豪快に破れ足先から太ももまで伝線し、傷口からは血が滲んで流れ出していた。
どんな豪快な転び方をしたらこんな大けがになるのだろう。恥ずかしい。でも恥ずかしいのはこれだけじゃない。みじめに逃げ出すしかなかったあの現場を見られたことは、もっと恥ずかしくてつらい。
西崎が背を向けてくれ、その間に素早くストッキングを脱ぐ。脱ぐときに手にも痛みが走って、転んだ時に手のひらにも傷を作っていたことに気づいた。
ストッキングを脱ぐと、濡れたタオルとガーゼ、消毒液を床に置いた西崎が未央の素足の前に膝立ちになる。
「自分でやります」
やましいことをしているわけではないが、さすがに男性の目の前に素足をさらすことには抵抗がある。未央は今のこのまだ理解しきれていない状況と、借りたタオルを汚してしまって申し訳ないという思いからか震える指先でそうっと血をぬぐう。
そんな遠慮がちに恐る恐る傷口を扱う未央にしびれを切らした西崎が、未央からタオルを奪うと、豪快にしたたたるほど消毒液をしみこませたガーゼを傷口に押し当てた。
「あ……っ、や、い……いた……!」
未央の悩ましく色っぽい声が部屋に響き渡る。しんと一瞬静まり返り、みるみると未央の顔が赤くなっていく。
「思い出すなぁ。君、いい声だよな」
そしてトドメ。
西崎は低い位置からじっと見上げながら口元には笑みをうかべている。未央は真っ赤になって発熱して蒸発、そして抜け殻になった。
乗車してからほんの十分ほどで車は停車した。それから車に乗り込んだ時と同じように抱きかかえられ、どこかわからない場所に連れていかれている。
「では、私はここで」
エントランスとエレベーターのオートロックを解除したところで、車に同乗していた西崎の秘書の一人である百瀬は立ち去った。
借りてきた猫のように西崎の腕の中で大人しくしていた未央だったが、二人きりになってはっと我に返る。
「二十一階、押してくれるか」
「お、おお降ろしてください」
「この脚で歩けるのか? 血がすごいぞ」
「あっあぁっ! 服が、服が汚れちゃいます」
「別にいい」
「二十一」。もう一度階数を言われ、両手がふさがって押せない西崎の代わりに未央は目の前のボタンを押す。
そして部屋の前につくと、無意識のうちに未央の手の中におさめられていた鍵で扉を開けるよう指示する。百瀬が立ち去り際に未央の手に握らせたものだ。
鍵を開け広く生活感のない玄関で靴を脱ぐ、というより無造作に落としそのまま部屋の中へと立ち入るとソファの上に降ろされた。
「ここは?」
「俺の家」
「え……?」
驚いて放心していると、いつの間にかいなくなっていた西崎が小箱をもって戻ってきた。
「脱げるか?」
「……は?」
「ストッキング」
突然、ストッキングを脱げと言われて動揺する。
「手当、できないだろ?」
そう言われ自分の膝に目を向け、さらに気持ちが動揺した。ストッキングは豪快に破れ足先から太ももまで伝線し、傷口からは血が滲んで流れ出していた。
どんな豪快な転び方をしたらこんな大けがになるのだろう。恥ずかしい。でも恥ずかしいのはこれだけじゃない。みじめに逃げ出すしかなかったあの現場を見られたことは、もっと恥ずかしくてつらい。
西崎が背を向けてくれ、その間に素早くストッキングを脱ぐ。脱ぐときに手にも痛みが走って、転んだ時に手のひらにも傷を作っていたことに気づいた。
ストッキングを脱ぐと、濡れたタオルとガーゼ、消毒液を床に置いた西崎が未央の素足の前に膝立ちになる。
「自分でやります」
やましいことをしているわけではないが、さすがに男性の目の前に素足をさらすことには抵抗がある。未央は今のこのまだ理解しきれていない状況と、借りたタオルを汚してしまって申し訳ないという思いからか震える指先でそうっと血をぬぐう。
そんな遠慮がちに恐る恐る傷口を扱う未央にしびれを切らした西崎が、未央からタオルを奪うと、豪快にしたたたるほど消毒液をしみこませたガーゼを傷口に押し当てた。
「あ……っ、や、い……いた……!」
未央の悩ましく色っぽい声が部屋に響き渡る。しんと一瞬静まり返り、みるみると未央の顔が赤くなっていく。
「思い出すなぁ。君、いい声だよな」
そしてトドメ。
西崎は低い位置からじっと見上げながら口元には笑みをうかべている。未央は真っ赤になって発熱して蒸発、そして抜け殻になった。