この想いが届くまで
 「……あの!」
 未央は涙を乱暴に手で拭うと声を張り上げた。広い部屋に思いのほか自分の声が響いてはっとしたけど言葉を止めることはできなかった。
「あの……っ、私、今は新しい職場で仕事に必死で恋愛なんてまったく考えていないし、する気もないけど。でも、頑張っていたらいつかまた、素敵な人が現れて……私また懲りずに好きに、なると思います」
 心を落ち着けるようにうつむいて深呼吸して一息ついてから「……けど」と聞き取れない声で呟いてから顔を上げた。
「すぐには無理だけど……いつかまた理沙に。今は背を向けて逃げることしかできなかったけど……あいつを見返してやろうと思っています。陽一よりももっともっと素敵な人見つけて、二人に幸せ自慢してやろうと思っています!」
 胸の前で両手で握りこぶしを作った未央の熱弁が二人きりの部屋に響いた。
 数秒の静けさのあと、それを破ったのは西崎の笑い声だった。
「わ、笑わないでください……。正直自分でもびっくりしてるんです……」
 未央は自分から出た言葉に驚きながらも「でも」と言葉を続けた。
「私も一年経って、そう思えるようになたんだと思います」
 見上げた先の西崎と目が合って、自然と口角を上げることができた。
「だから、社長にもいつか、きっと……」
 言いかけて、はっと未央は我に返った。「社長」。そう、目の前にいるこの人物は自分が今働く会社の社長なのだ。私は一体、どの立場で何を言おうとしているのだろう。
 言葉遣いや態度が完全に素の状態だったということに気づいてさっと血の気が引くのを感じる。感情的になって涙まで流してしまった。

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