この想いが届くまで
カーテンの隙間から差し込む光のまぶしさに寝返りを打つと少しずつ意識が覚醒してくる。
手を伸ばしてサイドテーブルに置かれた眼鏡を手探りで探し、ゆっくりと起き上がると眼鏡をかける。外ではコンタクトレンズを使用しているが自宅では眼鏡をかけている。普段はセンターパートに整えられた髪は前下がりになりところどころに寝ぐせができている。気だるそうに髪をかきあげると、指の隙間からサラサラと髪が落ちながらも表情が露わになる。寝起きの悪い彼らしくしばらく仏頂面のまま動かなかった。
久しぶりに昔の夢を見た。ぼんやりとした頭で夢に見た出来事をたどりながら西崎は思った。自分よりも、弟の方が陽菜と過ごす時間は長くその原因を作っていたのは自分だ。寂しい、と思っていてもそれを口に出して言えない性格であることを分かっていたのに気にかけてやれなかった。
「後悔しても……遅い、な」
消えるような声で呟くと掛け時計に目を向けた。今日は夕方から一件会食の予定が入っている。確認しなければいけない資料やデータ、メールも溜まっている。一応、今日は休日なのだが休みなどあってないようなものだった。
起き上がり寝室を出てリビングに向かい、キッチンでグラスを手に取るとふとカウンターの上に置かれたリップクリームが目に入った。薬局やコンビニで手に入る唇の乾燥を防ぐために塗るごく一般的なものだ。おそらく、これの持ち主は落としていったことすら気づいていない。西崎も積極的に返そうとしていないし、だからと言って勝手に捨てることもできずにいた。
数か月も前に怪我をして自宅(ここ)で手当をした未央が落としていったものだ。
未央と最後に会ってから三か月ほどが経っていた。最後に会ったのは年の瀬の夜の社長室。同じビルに勤めていても顔を合わせることなどめったにないのだ。
西崎はリップクリームを手に取りじっと見つめた。
一緒に飲み、体の関係を持ち、自宅にも来た。お互いの他人にはなかなか話せないような身の上話までした。それなのに連絡先一つ知らない。妙な縁で繋がっているな、と西崎は思った。
(今度また、どこかでばったり会ったら連絡先聞いておくか。)
そう心の中で呟くと同じ場所にリップクリームを置いた。
手を伸ばしてサイドテーブルに置かれた眼鏡を手探りで探し、ゆっくりと起き上がると眼鏡をかける。外ではコンタクトレンズを使用しているが自宅では眼鏡をかけている。普段はセンターパートに整えられた髪は前下がりになりところどころに寝ぐせができている。気だるそうに髪をかきあげると、指の隙間からサラサラと髪が落ちながらも表情が露わになる。寝起きの悪い彼らしくしばらく仏頂面のまま動かなかった。
久しぶりに昔の夢を見た。ぼんやりとした頭で夢に見た出来事をたどりながら西崎は思った。自分よりも、弟の方が陽菜と過ごす時間は長くその原因を作っていたのは自分だ。寂しい、と思っていてもそれを口に出して言えない性格であることを分かっていたのに気にかけてやれなかった。
「後悔しても……遅い、な」
消えるような声で呟くと掛け時計に目を向けた。今日は夕方から一件会食の予定が入っている。確認しなければいけない資料やデータ、メールも溜まっている。一応、今日は休日なのだが休みなどあってないようなものだった。
起き上がり寝室を出てリビングに向かい、キッチンでグラスを手に取るとふとカウンターの上に置かれたリップクリームが目に入った。薬局やコンビニで手に入る唇の乾燥を防ぐために塗るごく一般的なものだ。おそらく、これの持ち主は落としていったことすら気づいていない。西崎も積極的に返そうとしていないし、だからと言って勝手に捨てることもできずにいた。
数か月も前に怪我をして自宅(ここ)で手当をした未央が落としていったものだ。
未央と最後に会ってから三か月ほどが経っていた。最後に会ったのは年の瀬の夜の社長室。同じビルに勤めていても顔を合わせることなどめったにないのだ。
西崎はリップクリームを手に取りじっと見つめた。
一緒に飲み、体の関係を持ち、自宅にも来た。お互いの他人にはなかなか話せないような身の上話までした。それなのに連絡先一つ知らない。妙な縁で繋がっているな、と西崎は思った。
(今度また、どこかでばったり会ったら連絡先聞いておくか。)
そう心の中で呟くと同じ場所にリップクリームを置いた。