この想いが届くまで

　未央が身に着けているフェミニンな雰囲気漂うワンピースは数年前に友人と海外旅行に行った時に購入したそれなりのブランドもの。胸元はカシュクールになっていてシンプルなネックレスで大人っぽく。ウエスト部分がすっきり見えるデザインでスリムなスタイルが際立つ。
　セミロングのストレートの髪はアイロンを使ってふんわりと巻いて、メイクは前職で化粧品メーカーに勤めていただけあってお手の物。手慣れた手つきで最後にリップを塗って「よし」と呟いた。
　全身鏡の前に立ってワンピースの上に羽織るジャケットを二点手に取ってどっちが良いか合わせてみる。三月といっても夜はまだ冷える。
　この日は、新しい職場に来てはじめてのお付き合い。合コンだった。女性が占める割合が圧倒的に多い今の職場では出会いが少ないこともあり頻繁に開催されているようだ。あまりそのような話に前のめりにならなかったこともあり今日まで声がかからなかった未央だったが、ついに人数合わせで声がかかった。準備が入念なのは、素敵な男性との出会いに期待して気合いを入れているわけではない。未央が今まで経験してきたような合コンとはレベルが違ったからだ。相手は医者や弁護士、若い起業家で、店も気軽に入れる居酒屋などではなくドレスコードのあるレストランだったからだ。恥をかかないように最低限の身だしなみは整えたい。
　ジャケットやバッグ、靴などの小物も揃えて準備が整って時計を見るとそろそろ出なくてはいけない時間だった。自然とため息が漏れてしまった。なぜだろう、前の恋を引きずっているわけではないのに気乗りしない。恋愛は、いつかまたしたいと思っている。
　未央は急に不安に襲われぞっと背筋が震えた。
(だめだめだめ……私、このままじゃ一生独り身！？ いつかなんて言っていたらだめだ)
　目標、まずはお友達から。
　未央は鏡に向かって笑顔を作り気合いを入れた。