この想いが届くまで
 極上の夜景が望める個室で、男女六人が向かい合って座る。
 一目で分かる高級ブランドに身を包んだ落ち着いた大人の男性たちを前に、未央は緊張するわけでも期待に胸を膨らませるわけでもなくいたって冷静だった。唯一の感情はそんな自分に戸惑いを感じていることくらいだった。
 奥から入社三年目の未央より年下だけど仕事では先輩になる小柄の女性、真ん中には未央を日ごろ指導する立場にあるベテランの先輩。そして未央の順で座った。三者三葉、タイプは違うが美人とも可愛らしいともどちらも当てはまるレベルの高いメンバーに態度には出さないが胸を膨らませているのは男性陣の方だった。
 鮮やかな料理を堪能しながらゆっくりとした上品な雰囲気の中会話も弾む。お酒が入ってもそれは変わらず、今まで経験してきた男女ともにギラギラした合コンとはまるで世界が違う、と未央は心の中で思った。
 会話は途切れることなく男性陣からも女性陣からも次々と質問が出ては答え、それを聞きながら未央もそれなりに楽しんでいた。
「ねぇ、未央ちゃん。未央ちゃんは何か質問してみたいことないの?」
 聞き手に回り、質問されれば答える。そんな未央に隣の先輩が気を効かせて声をかけた。
 目の前に座る三人の男性は初対面の相手だ。聞きたいことといったら考えればいくらでもあるはずだ。相手を知るということは関係を深める上で避けては通れない大事なことだ。それなのに思い浮かぶのはすでに会話の中で交わされた情報を繰り返すものばかりで未央は分かりやすくフリーズした。
「緊張してるのかしら? いつもは先輩、先輩って質問攻めにしてくるのに」
 言い淀む未央に先輩からのフォローで笑いに包まれる。
「未央ちゃんは転職したって言ってたよね。前は何をしてたの?」
「はい、前職は……」
 向かいに座る男性からの質問に答え会話は続いていく。すべての料理が出そろうまで90分程、未央はそれなりに楽しいひと時を過ごせたと思った。
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