この想いが届くまで
自宅に着くとなぜかどっと疲れが押し寄せてきてすぐにベッドの横になりたいのをこらえて軽くシャワーを浴び、髪を乾かしルームウェアを着る。
顔が火照って熱っぽいな、そう思ってベッド横の引き出しから体温計を取り出した。脇に挟んでぼんやりしているとスマホのバイブ音が静かな部屋に響く。未央はそろりと立ち上がると部屋の入口に置いたままになっていたバッグごと持ってベッドに戻ってスマホを取り出す。
ディスプレイに表示された名前に目を見開いて、脇に挟んだ体温計がぽろりと落ちる。慌てて体温計を戻して、震える指先が通話をタップした。
「……もしもし?」
「あぁ、出た。西崎だけど今大丈夫?」
「え……え?」
「……? かけなおそうか」
「だ、大丈夫です。今、もう家なので」
約一週間待ち続けた相手からの着信だった。
「そうか。思ったよりも会議が早く終わったから今から会えないかなと思って連絡したんだけど」
時刻はまだ午後八時前だった。思いもしなかった誘いに喜んでいる自分の胸の内を自覚しながら、未央は手に取った体温計をぎゅっと握りしめた。
「……ごめんなさい。私、風邪引いちゃったみたいで」
「大丈夫? 熱は?」
「三十七度五分で、たいしたことないんですけど。土日しっかり休めばもう、全然……」
しゅんとした気持ちから声がどんどん小さくなる。
やっと連絡がきただけじゃなく、会おうとまで言ってもらったのにどうして今日に限って風邪を引いてしまったのだろう。
もう二度とこんな機会ないだろう。
「分かった」
スマホの向こうから響く声に未央は唇を噛みしめた。
「体調が良くなったら会いたい」
「……え」
「今までのような偶然じゃなくて、自分の意思で君に会いたいと思ってる」
「はい……はいっ」
私もです、とはとてもじゃないけど言えなくて、ただ何度も頷いた。
「それじゃあ、ゆっくり休んで」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ」
通話が切れるとこの日最後の力を振り絞るように素早くベッドに潜り込む。ドキドキと心臓の音が大袈裟に響いて、顔が熱い。
未央はもう自分の気持ちに気づかないフリをすることは出来ないと思った。
(好きな男……いるよ)
未央は西崎のことを思い浮かべて目を閉じた。
顔が火照って熱っぽいな、そう思ってベッド横の引き出しから体温計を取り出した。脇に挟んでぼんやりしているとスマホのバイブ音が静かな部屋に響く。未央はそろりと立ち上がると部屋の入口に置いたままになっていたバッグごと持ってベッドに戻ってスマホを取り出す。
ディスプレイに表示された名前に目を見開いて、脇に挟んだ体温計がぽろりと落ちる。慌てて体温計を戻して、震える指先が通話をタップした。
「……もしもし?」
「あぁ、出た。西崎だけど今大丈夫?」
「え……え?」
「……? かけなおそうか」
「だ、大丈夫です。今、もう家なので」
約一週間待ち続けた相手からの着信だった。
「そうか。思ったよりも会議が早く終わったから今から会えないかなと思って連絡したんだけど」
時刻はまだ午後八時前だった。思いもしなかった誘いに喜んでいる自分の胸の内を自覚しながら、未央は手に取った体温計をぎゅっと握りしめた。
「……ごめんなさい。私、風邪引いちゃったみたいで」
「大丈夫? 熱は?」
「三十七度五分で、たいしたことないんですけど。土日しっかり休めばもう、全然……」
しゅんとした気持ちから声がどんどん小さくなる。
やっと連絡がきただけじゃなく、会おうとまで言ってもらったのにどうして今日に限って風邪を引いてしまったのだろう。
もう二度とこんな機会ないだろう。
「分かった」
スマホの向こうから響く声に未央は唇を噛みしめた。
「体調が良くなったら会いたい」
「……え」
「今までのような偶然じゃなくて、自分の意思で君に会いたいと思ってる」
「はい……はいっ」
私もです、とはとてもじゃないけど言えなくて、ただ何度も頷いた。
「それじゃあ、ゆっくり休んで」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ」
通話が切れるとこの日最後の力を振り絞るように素早くベッドに潜り込む。ドキドキと心臓の音が大袈裟に響いて、顔が熱い。
未央はもう自分の気持ちに気づかないフリをすることは出来ないと思った。
(好きな男……いるよ)
未央は西崎のことを思い浮かべて目を閉じた。