この想いが届くまで
 会議室を手配してもらい、お客様を通してもらった。未央はすぐに向かって部屋の扉をノックして中へと入る。
 打合せなどに使う少人数用の会議室の奥に土屋は座っていた。
「失礼します。お待たせいたしました」
 年齢は30代後半から40代前半の男性。スーツではなく白シャツにジーンズという軽装であまり趣味がいいとは言えないアクセサリー類が存在感を放つ。足を組んで不機嫌そうに座り、未央は一目で「あ、この人苦手」と思ったがもちろん態度には出さない。
 自己紹介と名刺を手渡すとそれを無言で見据えてからバサリと音を立てて書類を机の上に置いた。
「このデタラメな発注書作ったの誰?」
「どこか誤りがありましたでしょうか」
「誤りだらけでしょ。そんなんで人に物を頼むなんて頭おかしいでしょ」
 発注書は未央が作ったものではなく、誤りがあるかどうかもすぐに確認出来るものではなかったので頭を下げる。
「申し訳ございません。確認して、明日修正したものをお渡しします」
「……」
 てっとり早く謝ってしまい話が途切れる。未央も社会人経験はそれなりに長い。この様な対応は経験済みだ。
「他になにかございますか?」
「ない」
 未央はこの威圧的な態度の男の対応が思いのほか早く終わりそうで内心ほっとする。
「君、前にここにきた時に対応してくれた子と違う子だよね」
「はい。以前対応した者は本日はもう帰宅しました。……それでは、エレベーターへご案内します。どうぞ……」
「は? 電話一本で終わる話をわざわざここまで話に来てるのにもう帰れって? 飲みに行こうよ。君若いよね、歳いくつ?」
「まだ仕事が残っておりますので。申し訳ありません」
「なんだよ、定時過ぎてんのに。この会社ブラック?」
 未央は思った。
 パワハラとセクハラ(どっちも)かと。
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