この想いが届くまで
 百瀬の運転する車の後部座席に、西崎と並んで座るのは二度目だった。落ち着かなくて、未央はずっと窓の外の景色に目を向けていた。陽はすっかり落ちて夜の街の街灯が煌びやかに光る。ニ十分は乗っているがどこに向かっているのかまったく分からなかった。
「停めやすい場所で止めてくれ。少し歩きたい。いい?」
 西崎の視線を感じて最後のは自分に問いかけられていると気づいて未央は慌てて頷いた。ほどなくして車は路肩に停車し、西崎に続いて車を降りると百瀬に礼を言って頭を下げた。着いたのはオシャレなカフェやショップが立ち並ぶ未央が休日に友人と会う時に利用することもある繁華街だった。
「風邪は? もう完全復活?」
「はい。もうなんとも。あの、ご報告したとおり……」
 西崎に着いて人の波に乗ってゆっくりと足を進める。
「報告……。あのメッセージなんだけど、もうちょっとどうにかならない?」
「あ、あ、あれは……!」
 西崎から連絡をもらった翌日、熱が下がった未央は西崎にそれだけでもどうにか伝えたいと一人戦っていた。電話をする勇気はなく、作っては消しを繰り返し何時間もかけ、やっとの思いで一件のメッセージを送信できたのだ。
「“お疲れ様です。ご心配おかけしております。朝には平熱になりました。月曜日は問題なく出社できると思います。“ ……業務連絡? コーヒー噴き出しそうになった」
「も、申し訳ございません……! で、でも私あれでもすごく一生懸命……!」
「分かってる。きっと……緊張しながら送ってくれたんだなって。嬉しかった」
 未央は頬が熱くなって何も答えられなくなった。
 分かってる、その言葉に自分の気持ちはとっくに相手に伝わってしまっているのではないかと思った。嬉しかった、その言葉に期待してしまうのだ。
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