この想いが届くまで
特に大したことを言っていないのに、未央の頬が嬉しそうに緩むのを見て西崎は不思議に思った。
「俺何か特別なこと言ったかな」
「一つ、あなたのことを知れて嬉しいです。……この間、私のこと知りたいって言ってもらえてすごく嬉しかったです。会いたいって言っていただいたのももう、熱が余計に上がっちゃう位嬉しくて。今日も、帰り際に嫌なことあったけどそのあとはずっと……」
「目逸らさないで」
「……っ」
しっかり伝えることができたのは最初だけで、徐々に目が泳いで言葉も早口になり下を向いてしまいそうになったところでもう一度目を合わせる。
「今日は……えっと、ちょっともう何の話してたのかわかんなくなっちゃったくらい今、どきどきしています」
「なんだか告白されてる気分だ」
「そ、それは……まぁ、はい、うん……。わっ私だってそう思うこと何度も……勘違いかもしれませんけど……!」
「勘違いじゃないよ」
「……期待、しますよ?」
「いいよ」
未央とは真逆で西崎は終始落ち着いて言葉もはっきり分かりやすいものばかりだ。まっすぐに見つめて、社長の時の顔とは違う柔らかな表情で告げた。
「俺は君が好きだよ」
「……特別、って意味でいいですか?」
「うん。もうこんな風に誰かを特別に思う気持ちになることないと思ったけど、人間案外、単純だな」
「……はい」
喧騒の中、人通りをはずれていると言っても賑やかな場所だ。でも不思議と周りの音が気にならなかった。風がふくたびに花びらが夜空に浮かび上がって、その景色を二人はそれぞれの思いを胸に抱えながら目に焼き付ける。
未央は意外と落ち着いていた。ふわふわとした気持ちですぐには実感が湧かないのだ。
「実感わかないって顔してる」
「はい……」
「朝まで一緒に過ごしてみれば湧く?」
「た……たぶん……?」
予想も想像もしていなかったことが次々と起こりすぎて未央の情緒はこの上なく不安定で、この日一番の動揺で声が裏返る。そんな未央の心情は簡単に見透かされている。
「安心してくれ、今日は何もしない。……今夜この後、空港行って海外出張なんだ」
ほっとする気持ちと、ちょっぴり残念な気持ち。そしてすぐに湧き上がる次の思い。
「こ、ここに居て大丈夫なんですか? 時間、ないんじゃ?」
「多分大丈夫だと思う」
「えぇ!?」
忙しい中自分のために時間を取ってくれたことに焦る気持ちと申し訳なさ、そしていけないと思いつつ湧き上がる一番の思いは。
「ありがとうございます。お忙しいのにここに連れてきてくださって……それなのにごめんなさい。私、今嬉しい。とっても幸せです」
少しだけ目を潤ませて頬を染め、笑うと少し幼く見える。はじめて見る自然体の未央の表情に、西崎は珍しく心を揺さぶられる。はじめての感情だった。
西崎は少しだけ身を寄せ未央の身長に合わせてかがむと耳元で小声で言った。
「戻ったら、次は朝まで一緒に居たい」
「はい」
すぐに元の距離に戻って見つめ合うと、未央はもう目を逸らさなかった。
「さ、行こう。送るよ」
「いえ、ここ駅近いので自分で帰ります」
「いいよ。タクシーだけど。それくらいさせてくれ」
「……はい」
先に足を進めた西崎に着いて未央も足を踏み出す。自然と並んで歩幅が合う。合わせてくれる。それだけでまた一つ幸せを嚙み締めるのだ。
「俺何か特別なこと言ったかな」
「一つ、あなたのことを知れて嬉しいです。……この間、私のこと知りたいって言ってもらえてすごく嬉しかったです。会いたいって言っていただいたのももう、熱が余計に上がっちゃう位嬉しくて。今日も、帰り際に嫌なことあったけどそのあとはずっと……」
「目逸らさないで」
「……っ」
しっかり伝えることができたのは最初だけで、徐々に目が泳いで言葉も早口になり下を向いてしまいそうになったところでもう一度目を合わせる。
「今日は……えっと、ちょっともう何の話してたのかわかんなくなっちゃったくらい今、どきどきしています」
「なんだか告白されてる気分だ」
「そ、それは……まぁ、はい、うん……。わっ私だってそう思うこと何度も……勘違いかもしれませんけど……!」
「勘違いじゃないよ」
「……期待、しますよ?」
「いいよ」
未央とは真逆で西崎は終始落ち着いて言葉もはっきり分かりやすいものばかりだ。まっすぐに見つめて、社長の時の顔とは違う柔らかな表情で告げた。
「俺は君が好きだよ」
「……特別、って意味でいいですか?」
「うん。もうこんな風に誰かを特別に思う気持ちになることないと思ったけど、人間案外、単純だな」
「……はい」
喧騒の中、人通りをはずれていると言っても賑やかな場所だ。でも不思議と周りの音が気にならなかった。風がふくたびに花びらが夜空に浮かび上がって、その景色を二人はそれぞれの思いを胸に抱えながら目に焼き付ける。
未央は意外と落ち着いていた。ふわふわとした気持ちですぐには実感が湧かないのだ。
「実感わかないって顔してる」
「はい……」
「朝まで一緒に過ごしてみれば湧く?」
「た……たぶん……?」
予想も想像もしていなかったことが次々と起こりすぎて未央の情緒はこの上なく不安定で、この日一番の動揺で声が裏返る。そんな未央の心情は簡単に見透かされている。
「安心してくれ、今日は何もしない。……今夜この後、空港行って海外出張なんだ」
ほっとする気持ちと、ちょっぴり残念な気持ち。そしてすぐに湧き上がる次の思い。
「こ、ここに居て大丈夫なんですか? 時間、ないんじゃ?」
「多分大丈夫だと思う」
「えぇ!?」
忙しい中自分のために時間を取ってくれたことに焦る気持ちと申し訳なさ、そしていけないと思いつつ湧き上がる一番の思いは。
「ありがとうございます。お忙しいのにここに連れてきてくださって……それなのにごめんなさい。私、今嬉しい。とっても幸せです」
少しだけ目を潤ませて頬を染め、笑うと少し幼く見える。はじめて見る自然体の未央の表情に、西崎は珍しく心を揺さぶられる。はじめての感情だった。
西崎は少しだけ身を寄せ未央の身長に合わせてかがむと耳元で小声で言った。
「戻ったら、次は朝まで一緒に居たい」
「はい」
すぐに元の距離に戻って見つめ合うと、未央はもう目を逸らさなかった。
「さ、行こう。送るよ」
「いえ、ここ駅近いので自分で帰ります」
「いいよ。タクシーだけど。それくらいさせてくれ」
「……はい」
先に足を進めた西崎に着いて未央も足を踏み出す。自然と並んで歩幅が合う。合わせてくれる。それだけでまた一つ幸せを嚙み締めるのだ。