この想いが届くまで
 少しするとテーブルに水が入ったグラスと布製の袋のようなものが置かれた。
「これなんだけど」
 西崎が隣で袋の封を解き中から色とりどりのビジューが埋め込まれた華やかなチェーンタイプのチャームを取り出した。ジャラっと音を鳴らしてカラーやデザインが違う五つが並べられる。
「わぁ、可愛い……!」
「知ってる?」
「はい! まだ日本未上陸だけど何年か前に駅ビルに期間限定ショップ出てて私行きました。ピアスかなにか買った記憶が……」
「知ってるんだ、さすがだな。これはここのブランドの周年イベントの記念品として招待者に配られたものらしい。うちからは誰も行けなかったんだけど記念にって五つもくれたんだけど……あげるよ」
「えっ! い、いただけないです……」
「遠慮しなくても。もらいものだし」
 未央はテーブルに並んだチャームを少しの間見つめて「じゃあ」と口を開いた。
「一つでいいです。この中から……私にぴったりだと思うものを社長が選んでください」
「俺が?」
 未央は声は発さずにコクコクと頷く。西崎はひととおり見てから迷うことなく一つを手にとった。「これ」と言って手渡されたチャームはフラワーモチーフの可憐で透明感のあるデザインのものだった。
「ありがとうございます」
 ほんのり頬を染めて嬉しそうにチャームを見つめてからはっとした様子で口を開いた。
「ちなみに……残りのものはどうするんですか?」
「え? あぁ……秘書か娘がいる役員かに譲るよ。そこからはその人の好きに娘や奥さんに贈ってもらえれば」
「それならいいです」
「……」
 自分だけがちょっぴり特別に感じられて頬を染めて喜ぶ未央とそんな未央を見つめる西崎。その視線に気づいて思わず姿勢を正す。
「……あの、何か……?」
「可愛いなと思って」
「……へ?」
「未央は今日何してた? 休みだよな」
「え、あ、はい……えぇっと」
 急に胸がドキドキと高鳴り出してその理由を考える間もなく西崎のペースに引き込まれてしまう。
「朝から部屋の片づけして……もう、ちょっと部屋が手狭で限界かなって、さすがに引っ越そうかなと……」
「ふーん。不動産屋行った?」
「いえ、まだこれからですけど……」
「楽しそうだな。明日行こう。俺も見てみたい」
「明日ですか!? ……あの。明日も一緒にいてくれるってことですか?」
「うん。未央がよければ」
「いいに決まってます……」
 嬉しい、そう口に出さなくても分かりやすく表情に出る。そこがまた可愛いと思ったが、あまり言い過ぎるのはどうかと思って次は口には出さなかった。
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