この想いが届くまで
 未央はぱちっと目覚めよく目を開くと声にならない悲鳴を上げた。
「おはよう」
 自分が横になるベッドの外側から頬杖をついた西崎と目が合ったからだ。
「えっ……えっ!? 朝……?」
「もうすぐお昼だけど?」
 未央はまるでスローモーションを見ているかのように、少しずつ状況を理解して表情を変化させていく。
「え、えと……なにしてるんですか……?」
「いつ起きるのかなって寝顔見てた」
「!!」
 未央は真っ赤になった顔を両手で隠す。
「で、でで電気を消して下さい!」
「電気はついてない。もう外が明るいんだって」
「私……いつ寝ちゃったんでしょうか……」
「いつって……」
「いっ、いいです! なんでもないです!」
 ベッドに移動してからのことが鮮明に頭に思いいかんで来て体が熱くなる。触れられた感触や熱、抱き合った時の心地良さや体温が生々しく体に残っていた。散々甘やかされて時に翻弄されて、何度目かの強い快楽に意識が遠退きそのまま眠ってしまったらしい。
「ずっと……起きてたんですか?」
「いや、まさか。未央が先に寝ちゃって、シャワー浴びて……朝方眠たくなったからまたここ戻って隣で眠って、そして俺の方が先に起きたってこと。俺何度もここ出入りしてるけど未央は一切起きる気配なかったよ」
「なんか……すみません……」
「よく眠れた?」
「……はい。それはもう、ぐっすりと……なんでこんなに寝心地がいいのでしょうか!? このマットレス?」
「どこのメーカーのか聞いておこうか?」
「いえ……こんな大きなベッド置けません……」
「サイズは選べると思うけど」
 未央は少しずつ顔を隠すように布団に潜る。
「私きっと酷い顔してる……それなのに社長は朝からそんなに爽やかにキラキラしてて反則です……!」
「きらきら……? 俺の寝起き知らないだろ」
「……見たかったです」
「また今度な」
「……」
 また今度。そう当たり前のように言われて嬉しくて恥ずかしくてついに頭まですっぽり隠れてしまう。
「起きないのか?」
 未央はようやく気がついた。
「あ、あの……起きるので。なにか、着るものを貸して下さい……!」
 今自分が何も身に着けていないことで改めて昨夜のこと、一人でぐっすり眠って寝顔を見られてしまったことなどの事実をもう一度まとめて実感して未央は全身が熱く顔は真っ赤になった。
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