溺愛ドクターに求愛されて
私の記憶の中の母はいつも泣いていて、心配する私に困ったように笑って父を庇った。
父と離婚してすぐに体調を崩した母親は、最期の瞬間まで父親を庇っていた。
あの人は寂しい人なのだから仕方ないのと、諦めたように微笑んだ母はきっと父の事を心の底から愛していたのだろう。
何度浮気されても、傍にいたいと願うほどに。
だけど私は無理だ。そんな風には思えない。
私と母を捨てた父を、私は恨んでいる。
『沙織、本当に悪かったよ。だから、別れるなんて言わないでくれ。俺、沙織と結婚するつもりでいたんだ』
私だって、そう思ってたよ。
だけど、岸本さんとキスしてた弘樹がどうしても今も憎んでる父親の姿と重なるの。
私と母をゴミのように捨てた父親への恨みと憎しみを嫌でも思い出してしまう。
私は母みたいになれない。あんな思いをするくらいなら、私は一人で生きていくことを選ぶ。